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ラベンダー 第16回

 すると今度は陽向が、話し始めた。
「私の高校の制服はブレザーで、組合せのパンツとスカートは、男女関係なくどっちでも選べるし、男子でも両方持ってる子も結構いるよ。パンツとスカートの両方をはいてくる女の子は二、三十人くらいかな、たまにスカートはいてくる男の子はまだ三、四人しか見たことないな。惜しいことに、お兄ちゃんとこみたいにめっちゃかっこいいわけじゃないけどね。ねえ、お兄ちゃん、今度そのファッションセンスの塊みたいだっていう人紹介してよ」
「いや、知らねえ奴だから、無理だな」
 渉と翔子は、我が子である息子と娘の若者的感覚について行けずに、どちらからともなく顔を見合わせる。そんな親たちの気持ちを知ってか知らずか、陽向は通っている高校の興味深い「伝説」を話してくれた。
「そっか、残念だなあ。でも、うちの高校もスカートの男子が、少しずつ増えてきてるみたい。それからね、先輩から聞いた話だけど、十年ちょっと前の女子の卒業生で、成績抜群で生徒会長をやりながら、野球部に入ってレギュラー寸前まで行ったスーパーJKがいたんだって。公式試合は規則で出場できなかったけど、練習試合ではヒットも打ったし、二塁の守備でファインプレーもしたらしい。その先輩が卒業アルバムのポートレートを撮る時に、当時はまだ女子はスカートで、男子はパンツという校則があったんだけど、どうしてもブレザーにパンツで撮りたいって願い出たんだって。
 結局認められなくてスカートで撮ったんだけど、お母さんができた人で、娘の願いをかなえるために、アルバムの後ろの広告スペースにお金を払って、ブレザーとパンツ姿の娘の写真を載せたっていう話なの。すごいよね。うちの高校の伝説になってるよ。だからってわけじゃないけど、私も、お父さんが女性っぽい服を着ても別に嫌じゃないよ。ただ、あんまりケバいのはお父さんに限らず好きじゃないけどね。それと、私の服は絶対貸さないからね。それだけは嫌だからね」
 そういう陽向のことばにかぶせて、翔子は「私も絶対貸さないからね」と付け加えた。陽向と翔子は目を合わせほほ笑みながら頷き合った。それを見て渉が
「分かった。約束する。家に入れてもらえなくなると困るからな」とややこわばった声で言う。すかさず元希が「親父、お袋と陽向には頭上がらねえからなあ」と言いながら、首をゆっくり振って愉快そうに笑った。

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