ラベンダー 第4回
翔子は思いを巡らし、少し頭の中を整理してから再び話し出した。
「もう少し早く言ってほしかったな、やっぱり。そうしてくれてたら、もう少し驚かなくてすんだかも。分からないけど」
「やっぱり驚くよね。そりゃそうだよな。もうちょっと僕に甲斐性があれば、もう少し早く話せたんだろうけど」
「甲斐性っていうか、勇気とか意気地のほうじゃないの」
「ごめん、申し訳ない、ほんとに」
「謝られても困るけど……、ま、今さら愚痴っても仕方ないけどね」
「仕方ないってのは、僕がこんなでも構わないってこと?」
「まったく構わないってわけでもないけれど、こだわってもどうにもならないんじゃない? それと『こんなでも』なんてネガティブな言い方はやめてほしいな」
「ごめん、気をつけるよ。ただ、どうにもならないってのは、たしかにそうなんだけど、翔子にそれを押しつけるのは気が引けるよな、ああ、そうか、だから思い切って話せなかったんだ、そうなんだ」
ジグソーパズルのピースがはまった時のような、ちょっと嬉しそうな声で渉が言った。翔子はそのことばには応えず、どうしても聞いておきたかったことを、思い切って尋ねてみた。
「でもさ、どこがいいの? 周りに気を使ったりして大変じゃない?」
「いや、逆、逆。むしろ、なんか楽なんだ。気分が落ち着いていいもんだよ、自分の好きな格好するのって」
「ふうん、そうなんだ」
翔子は一応は納得しながら、頭の芯では、なぜ自分が取り乱しもせずに渉の告白を受け入れてしまっているのかと、まだ考えを巡らせていた。何かもうひとつ背負ってしまった感はあるけれど、明日からの日常が、そのせいでとんでもなく変わるわけでもない。もちろん、だからといって、これからの日々が今までより輝きを増して、幸せと充実感に包まれる、というわけでもなさそうだ。
優しく扱わなければならないその何かを、手の平で丁寧にくるんで、暮らしていくことになるのだろうと、翔子はぼんやり思い描いている。多分やっていけるだろうし、そうしたいという思いもある。ただ、新たに出くわしたことに少し狼狽したあとで、何とかそれと折り合いをつけていけるだろうと思いつつ、かすかな不安も抱いてはいた。翔子はこれに似た感情も、かつて覚えたことがあるような気がした。