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ジグソー 第26回

       Ⅵ
 それから二ヶ月半が過ぎ、木々の葉がすっかり落ちて、街には年末のイルミネーションが輝き始めた。槇野がケアセンターの朝礼に臨んでいると、松柏園から連絡が入った。佐伯が食事中に誤嚥を起こして治療中なので、今日のリハビリとマッサージは中止と、その場にいたスタッフに伝えられた。
 朝礼後すぐに貴裕は、松柏園で佐伯を担当している看護師の栗橋杏子に、電話で詳しい状況を問い合わせた。栗橋によれば、佐伯の症状は重く、松柏園と医療提携を結んでいる水島総合病院に搬送されて、誤嚥性肺炎と診断されそのまま入院することになった。そして、入院の身元引受人になってもらうために、佐伯の妻に電話をする必要があると言う。佐伯は松柏園入居の際に、修子に連絡をとり保証人を引き受けてもらっていた。それを聞いた貴裕は、とっさに修子との連絡役を買って出た。
 彼は、佐伯の息子であることはこれまでの成行き上、栗橋には伏せたままにするつもりでいた。「リハビリに関して奥さんとも電話で話したことがあるので、ご家族への病状説明や、身元引受人の手続きは私に手伝わせてください」と、話そうと思った。だが、その思惑とは裏腹に、実際には本当のことを話し始めていた。
「実は、事情があって伏せていましたが、佐伯一成は私の父親なんです。詳しいことはのちほどお話ししますが、とりあえず奥さん、つまり私の母への連絡はお任せください」
 貴裕の話に少なからず驚きながらも、栗橋は即座に状況を飲み込み、ベテラン看護師らしくさらに手際よい方法を提案した。
「分かりました。じゃ、詳しいことはあとにしましょう。私もお伝えしたいことがありますし。それじゃ、こうしませんか。槇野さんご自身が親族として入院の身元引受人になっていただけませんか。何も他人に知らせる必要もないし、そのほうが、ことがスムーズに運びます。ご家族への連絡は、時間のある時に槇野さんにしていただくのがよいかと思いますが、どうでしょうか」
「ああ、そうか、そうですね。仰るとおりです。そのようにしてください。ご教示ありがとうございます」
そう言って貴裕は電話を切った。

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