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サニー・スポット 第39回

 三日を経ずして、ブリッグズから辺見案を飲むとの連絡が入り、辺見は胸をなで下ろした。元来アメリカでは、退職後を見込んだ積み立て制度や年金プランが主流で、一括支給の退職金制度はあまりなじみがない。ブリッグズにとって受け入れやすい条件と見定めた心理戦を経ての痛み分け、あるいは取引といえるかも知れないが、一応善処できたと、辺見は自負している。
 実は銀行側には、裁判所で和解案の検討を始めているという情報が入り、その内容を弁護士に探ってもらっていた。辺見案は、それを元にしてより銀行の言い分を通した名目上の退職、実質は解雇という打開策でもあった。ブリッグズの醜聞は、白人男性に気を許しやすい日本人女性につけ込むという悪質なものだった。そのような不良外国人を実質的に解雇できたことは、成功裏の決着であったと辺見は考えている。
 一気に語り終えた辺見は、卓上の麦茶を飲んで喉を潤した。一息ついてから、ことの経緯を話し終えて安心したかのように、穏やかな口調で回顧するように話に戻った。
「彼の米国出張を認めるか否か。この一か八かの勝負、いわば、賭けですが、これに出るかどうかは大いに悩みました。裁判で正々堂々と争うのが、本来取るべき道でしょう。ただそのようなやり方は、彼のような悪意を持った人間を利することにもなる。彼にとってはごね得となる可能性が高い。
 この状況でのブリッグズの米国出張願いは、私には一つのサインに見えました。奴は母国に帰りたがっている。複数の醜聞が露見した日本には滞在する意味がないと踏んで、逃げを打っていると、直観したんです。ただ、私の考えどおりにことが進む保証はない。もし、失敗したら、例えば、彼が母国での再就職がかなわず、腹いせに米国から日本に帰りもしないまま裁判を継続させたら、どうするか」
 辺見はそこで、また麦茶に口をつけた。杏子は、辺見の語るいきさつの中で自分の夫がどのような役割を果たしたのか、まだ見当がつかないでいる。


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