サニー・スポット 第21回
植田が気づき辺見が察知したのは、吉住取締役と山畑副支店長が二人とも旧春日銀行出身ということだった。植田と辺見、そして高藤は旧椿銀行系である。山畑は植田支店長の一年後の入行で順調に管理職の階段を上ってきた。少し早いが植田と同時にどこかの支店長になってもおかしくない立場にいた山畑にとっては、それがかなわなかったことは、待ちぼうけを食わされたように感じられただろう。合併後に入行した社員には理解しにくいことだろうが、椿系と春日系の間の目に見えない反目はたしかに存在した。
人事部はあらゆるところで両陣営の均衡を保つように、細心の注意を払って人員配置をしているはずだが、パイが小さくなった分だけは、どうしても不平が募る。それは誰にでもいえることであり、吉住取締役も例外ではない。その不平が椿系と春日系の派閥意識のひずみよって歪曲されて、些細なことから不公平感が生まれ、時に思わぬ些末な偶発事を招来することも珍しくない。それが完全に解消されるには、合併以前からの行員が全員退職するまで待つしかないであろう。
突如現れた、勧告書というハードルの背景が透けて見えたような気がして、辺見は却って肩の荷が少し軽くなったように感じ、自分なりの推測を植田に話してみた。旧春日系にとって、植田支店長にもし瑕疵があれば、それは相手チームのエラーといえる。相手のエラーによって、自らのチームが得点する可能性もある。エラーかどうかは分からないがその可能性があるのなら、文書にでもして、軽くチェックをしておくにしくはない、そう吉住取締役は考えたのだろう。
勧告書が明白な目的や何らかの悪意に基づくものとはいえまい。山畑副支店長が何事かを吉住取締役に依頼したわけでもなければ、取締役が進んで何かを取り計らったわけでもあるまい。おそらく山畑の事案担当者としての軽い愚痴を吉住が聞いているうちに、いわば「魚心あれば水心」でことが進んだのではないか。ただ結果的に、エラーを犯したという印象を周りに与えるかもしれないという未必の故意を内包する勧告を、二人は思いがけず生み出してしまったことになる。
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