見出し画像

メンヘラ過ぎて妖怪化したお話


葬式で彼女の旅立ちを見送り、
後はお世話になった方々への挨拶回り。
それが終わると俺は変哲もない日常に戻った。

かのように見えた…。

考えてみたら
「おはよう」も「おやすみ」も
言葉にする事はなくなった。
俺が仕事に行く時には「いってらっしゃい」と
笑顔で見送ってくれた。

仕事が終わると「終わったよー」と
LINEして「おつかれさまぁー」と返事がくる。
それを合図に彼女は晩御飯の支度。
帰宅すれば「おかえりー」って。
作ってくれたご飯を一緒に食べて…と。
ごくごくありふれた、幸せな日常だった。
喧嘩もよくしたなぁ。

挨拶に食事、日々のちょっとした変化。
彼女が死んだという事を
生活の中で様々な角度から
思いもよらないタイミングで
痛感させられる。

スーパーに買い出し行って
玉ねぎ見ただけで
涙が出そうになる。
切ってもいないのに。
野菜コーナーの前で献立を考えながら
買い出ししてる彼女を想像する。


幸せだった日々が頭から離れない
彼女の作った生姜焼きが食べたい。
だけど、もうそれは二度と食べられない。

彼女の死後、半月くらい経ったろうか。
とある朝。
目覚めの悪い、ぼやけた感覚の朝だった。

ふと見ると
自分の左手が
彼女の肌を、温もりを探して
布団の外を這っていた。

無意識に、だった。

いつも彼女は俺の左側に寝ていた。
歩く時もいつも俺の左側を歩いてた。
彼女の右手が
俺の左手を握っていた。
それはこの身体に刻まれた記憶だった

手に残る記憶。
細い指の感触。
頭ではわかってても
あの可愛らしい指のぬくもりは
なかなか消えない。

葬式もした。
この目でちゃんと最後を焼き付けた。
骨まで食べた。
だからわかってる。
頭ではわかっている。
彼女はいなくなったんだ、と。
もう死んだんだと。

でも、この左手は今も
彼女の温もりを求めてる。

それを目の当たりにした瞬間
俺は内側からぶっ壊れた。
押し殺していた本音
理性、心、感覚すべてが
喪失感に押しつぶされていく。

俺はそこから堰を切ったように泣いた。
嗚咽っていうレベル。一人泣き続けた。
それで治療中の前歯が取れ、
飲み込んでしまうほど。

人間こんなにも泣けるのか。
人生で1番わんわん泣いた日々だった。
泣いては彼女の写真や動画を見返し
見返しては泣く。その繰り返し。

少しでも他の事を考えなくちゃ。
頭ではわかってる。
ネガティブな感情に
振り回されるなんて愚かだ。
だが、
理性や損得、普通や常識を越えた感情が
人間にはある。
それは抗いようもないものだった。

精神は悪化する一方で
喪失感に加え、罪悪感も増してくる。

遺影を眺めながら脳内で彼女の声がする。
いや、自分の心の声だろうか。
どっちかわからない。

死んだ方がいい。死ぬべき。死ね…。
俺は俺を責め、脳内の彼女の声もまた
俺を責めているような気がした。

後追いの文字がチラつく。
俺も死んだ方がいい。
そんな想いが次々と浮かんだ。
幻聴じゃなく、湧き上がる心の声って感覚。

気がつくと俺は
彼女の残した精神安定剤をバリバリと
大量に貪り食っていた。
とにかく頭の中を空っぽにしたい…
考えたくない
そんな一心でオーバードーズ。
一気にズドーンとラリっていた。

髪もボサボサ
前歯が抜け、泣きながら精神安定剤食って
意識も足元もフラフラのおっさん。

その姿たるやメンヘラどころか
妖怪のレベルに達してたと思う。
18禁ものの出立ちだったろうね…。

酒を飲む、歌う、泣く。話す。
気持ちを発散出来そうなものはすべてやった。
それでも喪失感と罪悪感は消えず
俺はOD※オーバードーズを重ね
気絶するように眠り、起きる生活。
起きては彼女の写真を見返す。
そしてまたOD。

このままだと俺はいずれ自分から死を選ぶ。
そんな予感がひしひしとする。

このままじゃヤバい。
人間になりたい。戻りたい。
俺は彼女の通っていた精神科に電話する。
付き添いで何度も通った場所。
今度は自分が行くハメになるとは…。
運命の皮肉とはまさにこの事。


しかしここで俺は思いもよらない形で
この国の社会の不備を知る事となった。

その辺はまたのお話で書きたいと思います。

今回もご一読ありがとうございます🙏

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?