moment作品紹介其の32Lieu de mémoire 桜丘町 ハマダユキヒコA4判(変形サイズ)モノクロ36頁
記憶の街
1998年12月、初めて桜丘町を訪れたボクは渋谷駅西口から歩道橋を上がり、正面のビルに掲げられた巨大な壁面広告を見て圧倒された。ドラマ『神様、もう少しだけ』の登場人物である啓吾とカヲルの印象的な 姿。「やはり東京はやる事がオシャレだ」と感心しながら歩道橋を渡り、桜丘町のはずれに住む友人宅へ と向かう。
それから二十年後、再び12月に上京していた時「桜丘町の一部が再開発される」と聞いて驚き、思い出の街 を写真に残さなければという焦燥感に駆られ、訪れることにした。
街の風景は記憶とほぼ変わらないが、渋谷の外れとはいえ人影はまばらで、時雨そうな空や風に吹かれた枯葉が街の雰囲気を一層寂しくさせている。 いたるところにある工事予告の看板には、ー ヶ月後に通行止めになると書かれている。そう、この街はあと少しで姿を消し始めるということなのだ。
もし上京していなかったら、過去の記憶のままだったであろう桜丘町。最後にこの街並みと再会できたことは、悲しくも幸せに思う。
ハマダユキヒコ
●「Lieu de mémoire/記憶の街』について。
直訳「記憶の場所や思い出の場所」
Lieu de mémoireは、歴史的出来事など「忘れがたい記憶」という無形の抽象的なものを具象的に証明する有形の現実的な場所を指す。
それは、フランスの歴史学者ピエール・ノラが著書『Les Lieux de Mémoire』の中で提唱した考え。
今回のタイトルは、「忘れがたい記憶」=記憶の中にある街、「有形の現実的な場所」=桜丘町と考えた。
作者キャプションより
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?