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短編小説「思い出を盗んで」その2 冬の日の午後

    オフコース「思い出を盗んで」より


その2 冬の日の午後

    私が彼と初めて出会ったのは一年ほど前の初冬の頃だった。

    その日は小春日和で暖かな日差しが心地よかった。婦長に施設の中を案内された私は戸外ヘ出た。デッキにはベッドが十台ほど並べられており、その半分くらいに人が横たわっていた。皆気持ちよさそうに目を閉じている。

 「暖かい日はなるべく日光浴してくださいね」

 婦長の言葉に私は頷いた。

 「この病気には紫外線が良く効きますからね。あなたは若いからたっぷり日光浴をして、たっぷり栄養を採れば直ぐ良くなるわよ」

 「はい」

 「あちらの中庭で本を読むのもいいわよ。裏の丘を散歩するのも気持ちいいわ」

 私は婦長が指をさした方を見た。丘へ続く小道があるようだった。

 「それじゃあ私はこれで失礼しますね。分からないことがあれば、いつでも聞いてくださいね」

 婦長の言葉に私は頭を下げた。婦長は満足気に頷くと建物の方へ戻っていった。私は特に何もすることもないので丘へ行ってみることにした。

 丘の小道はよく整備されており傾斜も緩やかだったので、運動不足の私にでも息を弾ませることもなく上がることができた。

 丘の頂上では一人の青年が小さな折りたたみの椅子に腰をおろしキャンバスにむかって絵を描いていた。

 小春日和の冬の午後。柔らかな日差しに包まれた彼は一心にキャンバスにむかっている。時折吹き抜ける穏やかな風が彼の髪を撫でていく。私にとってはそんな彼の姿こそが一枚の絵画だった。

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