短編小説「思い出を盗んで」その1 序章
オフコース「思い出を盗んで」より
序章
部屋のドアを開けると何もなかった。正確に言うと、ベッドと椅子と机と戸棚という最低限の家具しかなかった。
中庭に行ってみると、待ち人来たらずといった感じでベンチが淋しげに蹲っているだけだった。
裏の丘に足を運んでも見慣れた風景が広がっているだけだった。
ただ一つ違うのは居るべき人が居ないこと。私は彼がいつも寝転がっていた場所に腰をおろして同じように寝転がった。いつものように風が通り抜けていった。