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斎森香耶が好きになった
「わたしの幸せな結婚」というアニメを見始めた。
あまりネタバレの無いように纏めると、いにしえより洋の東西を問わず愛されてきた継子虐め譚・シンデレラストーリーである。
私は恋愛モノや転生モノ(本作品は転生モノではない)にはあまり興味がない。私が好きなのは、呪術だの異能だのといった類の話だ。
わたしの幸せな結婚、タイトルからして最近ブームになっている令嬢溺愛系かざまぁ系か悪役転生か...…と敬遠していた。
しかし、「わたしの幸せな結婚」、通称わた婚にはそういった異能要素があると聞き見始めたのである。
さて。本題に入ろう。
わた婚の主人公は斎森美世。
ザ・大和撫子なヒロインで綺麗な心の持ち主である。しかし、継母と義理の妹に冷遇されて育ったため自己肯定感が恐ろしく低い。
冷遇という言葉で片付けて良いのか躊躇うほどの仕打ちを受けている。悲しすぎてアニメを見ながら泣いてしまった程だ。感動以外の理由で泣いたアニメは他にない。
そして、本作品における悪役ヒロインこそが斎森香耶だ。
主人公美世の異母妹にあたる。
アニメ1話の冒頭で姉に、こんなもの飲めない、とお茶を投げつけるという、最低すぎる登場を果たした(使用人同然の扱いを受けている姉に入れさせたお茶だ)。第一印象で嫌悪感しか抱けないキャラというのも中々いないだろう。
それ以降も、回想シーン含め非人道的としかいえない行為を繰り返す。
香耶だけが悪いのではなく、両親の教育方法にも非があるため、見方を変えれば香耶も被害者ではある。幼少期の香耶にそこまで悪意は見られない。
しかし、裁判官のように冷静にアニメを見られるはずもなく。
香耶早く罰が当たれ、美世早く逃げて幸せになれ、と祈るようにアニメを見続けた。完全に香耶が嫌いで憎らしくて仕方なかったのだ。
...…が。
私が、私自身の中に香耶がいると気が付いたことで香耶が好きになったのである。
なんとも都合の良すぎる話だとは自分でも思う。
でも、好きになってしまったのだ。
香耶は、常に姉である美世より優位な立場に置かれることを渇望している。
姉の不幸が蜜の味。どんな手段を使ってでも、姉をこの上なく貶めてでも自分が一番にならなければ気が済まないのだ。
...…利己主義にも程がある。こんな評判なら、友達にしたくないランキング堂々1位を飾れるだろう。
落ち着いてnoteを書いている今でもそう思う。
しかし、それでも香耶が好きなのだ。
もしかしたら、好きというよりは親近感を覚えたといった方が適切なのかもしれない。
ここで私自身の話にシフトしたい。
時々、友人がとても幸せそうな近況報告をしてくれることがある。
もちろんその内容は相手によって様々だ。
そして、その報告を聞いた私はごくまれに、妬み嫉みの感情を覚えるのだ。
普段は素直に相手の出来事を喜べる。
けれども、自分自身の生活に満足できていないときや、特に努力をしていない分野で棚ぼた的に幸せに運が巡ってきた話を聞くと、焦りに劣等感に羨みにと、汚い感情があふれ出してしまう。
「汚いな、自分」と自己嫌悪した。
それからこの汚い感情に向き合っているうちに、「あれ、香耶じゃん」と気が付いた。
香耶は露骨に美世に嫌がらせをし、美世の幸せを奪おうと躍起になる。
一方の私はどうだろう。
僻んでいる素振りなど微塵も見せずに友人の幸せを喜ぶ...…フリをする。
仏教でいうところの修羅の命である。
あからさまな態度をみせる香耶と違い、表面上は善人を装おうとするあたり、私の方がはるかに香耶より汚れた心の持ち主といえそうだ。
その上、私は度々下心満載で「良いこと」をする。
今日ここで良いことをしておけば、思いがけない幸運がやってくるはず。
そうでなくとも、良いことをすると幸せホルモンが出て云々という話を聞いたことがある。「良いこと」をすれば多分私は幸せになるのだ。
そんな理由で、街中で困っていそうな人に声をかけてみたり、落ちているゴミを拾ってみたり、ということをする。
正真正銘偽善者である。
偽善者どころかセコい奴だ。
こんな仮染めの「良いこと」なんかせず、自分の快だけを忠実に追い求める香耶が、清々しくて良いなとも思っている。
妬み嫉みの感情を剥き出しにし、直接憎悪の感情を向け、相手を陥れようと行動に移す。
汚い感情を隠すことなく吐き出せるなんて強いじゃないか。
かくして私は香耶が好きになったのである。
公式サイトでキャラクター診断が出ていたので興味のある方はぜひ。