万引き老人と自分の話
テレビでは老人の万引き犯の話をやっている。
店を出たところで捕まって、未精算の商品を前に「支払いを忘れただけだ」と言い張る老人。
なかなか切ない場面である。
もう10年以上前、まだレジ袋が無料だった頃だ、もしかしたら20年くらい前かもしれない。
私は近くのスーパーで買い物をした。
会計をして、家に向かって500mも歩いただろうか。
ふと何か強烈な違和感を感じたのだ。
何か決定的な間違いを犯している。
しかし何だろう?俺は何をやらかしたのか。
考えること数秒、答えは出た。
自分が抱えているのはレジ袋ではないのである。
そう、私の右腕にあるのは、スーバーの買い物カゴそのものであった。
私は買った商品を袋に詰め替えることを忘れて、そのままカゴを抱えて外に出てしまっていたのだ。
もう50メートルも歩くと我が家に着くところまで来ていた。
今は閉店してしまったこのスーパー、本当に近所にあったのである。
再び数秒逡巡する。
戻るべきなのか?戻るべきなのだろうなぁ・・・。
何が言いたいのかといえば、保身のために言い訳をする万引き老人も多いのだろうが、中には、そう50人に1人くらいは、本当にうっかりしてしまった人もいるのではないかと、そういうことだ。
近い将来、私が少々ボケてしまって、袋詰めどころか会計そのものを忘れてしまって、店を出てしまうことがあるのではないのか?
そしてその時、私を捕まえた万引きGメンたちは、私の弁明を聞いてくれるのだろうか?
妄想するだに恐ろしいではないか。
テレビの中で泣いて詫びる老人の姿が自分に重なってぞっとしたのである。
さて、あの日私が恥を忍んで戻ったかどうかについては、ここでは書かない。
炎上しては困る。