色の話
先日、水彩画を教えていて、「このビリジャンがですね・・」みたいなセリフが口をついて出たのだけれど、ビリジャンだとか、クリムソンレーキとか言っても、残念ながらほとんどの人には伝わらない。
それはもうずっと前から、それこそ人に教える仕事を始めて以来、身にしみてわかっているのだから、もういいかげん別の言い方を考えろと、自分に対して歯痒く感じている。
ここまで書いて、ということは読んでいる人にも伝わらないのではないかと思い当たった。
申し訳ない、色の名前である。
一応、ビリジャンは緑、クリムソンレーキは赤の色名の一つ。
ならばそのまま、「この緑が」といい替えればいいのではないかと思う向きもあるやもしれないが、それではダメなのである。
それは、「パスタ」と「うどん」と「蕎麦」を全て麺と括るようなものだ。
例えば「ビリジャン」と「テールベルト」と「エメラルドグリーン」はすべて緑の名前ではあるが、色味も特性も違う。
これは、少し真面目に絵と向かい合えば、苦もなくそれぞれの違いは理解できるし、替えのきかないものだということがわかってくる程度のものなのだが、いざ伝えようとすると固有名詞なしでは至難の業だ。
「ここはビリジャンではなく、テールベルトを使ってみたら」というようなことを、パレットを指差しながら、「これじゃなくてこっちの色」みたいに伝えるのではあまりに芸がない。
だからわたしはずっと歯痒いのである。
ところで色の名前ほど、混沌としている分野も珍しい。
調べてみると人間の能力的には100万色見分けられるなどという記述もネット上にあるようだ。
実際の生活する上では、そのうちせいぜい数千くらいを見分けているに過ぎないだろうとは思うが、それにしても大した数だ。
これも調べた話ではないが、多分色名も数千単位で存在するのは間違いない。
で、問題はそのそれぞれに対して、場所や分野によって、バラバラの解像度で適当な色が紐づけられていることが多いのである。
例えば日本で「カーキ色」というと、
一般人は「黄土色」から「深緑色」の間の何かを連想する。
イギリスではもう少し「ベージュ」に近く、アメリカでは「オリーブドラブ」だったりする。
また服飾業界ではこれを「アースカラー」などと称する。
美術界隈では「イエローオーカー」から「サップグリーン」
ウェブ関係だと#C3B091 印刷屋だとCMYK 0, 10, 26, 24
軍装品オタクにとっては「国防色」
もう収拾がつかない。
とはいえ、色の名前ほど美しいものもないだろう。
例えば萌黄色と萌葱色。
前者は平安時代からあった色名で春に萌え出る黄色みがかった若葉の色、後者はそこから江戸に派生した言葉でネギの青緑。
さらに生えたてでまだ薄い萌葱色を浅葱色という。
浅葱色がさらに明るくなると新橋色、明治の新橋芸者の間で流行したからで、置き屋の場所から金春色とも。
ちなみに英語名はターコイズブルー、トルコ石の青である。
とりとめのない話になった。
こういうのを「色々」というが、学習指導要領ではこの漢字は当てないことになっている。
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