おい幸之助
高校生の時に、新聞の社説だか一面コラムだかを何本か読んで、感想を書いて提出、という宿題が出たことがあった。
文章は自分で勝手に選んでよいという。
今と違って新聞をとっていないという家はわずかだった時代だ。
スポーツ新聞はダメだぞぉなんてことを言われた覚えがある。
それで、家でとっていた新聞を一週間くらい真面目に読んだのだが、たまたま当時設立されたばかりの松下政経塾に関するコラムが目についた。
松下幸之助に思うところはないし、元の内容もすっかり忘れてしまったが、とにかくわたしはそれに対する感想を書いたのである。
わたしの主張は、「企業経営者が社会に何か還元をするのであれば、教育ではなくてインフラでやってくれ」という趣旨であったと思う。
どこまで理路整然と書いたものかよく覚えていないが、要するに趣旨のよくわからない学校なんかより、公園だとかホールなんかを作ってくれよと、そういうことが言いたかったわけだ。
繰り返し松下幸之助に何も含むものはないが、営利企業の経営者が政治を教えるのか? という違和感があったのだろうと思う。
さて、これに対する国語教師の添削は、「君の主張はどれもなかなか斜に構えていて面白いが、この"学校なんか"というのはどうだろうか?教育は百年の計というからねぇ」という内容だった。
わたしは多分不満だったのだろう、この赤ペンの書き込みだけはよく覚えている。
そんなものかねぇと思ったが、何しろ百年の計と言われてしまったら、検証のしようがない。
というわけで、この話はここで終わりとなったのである。
そして45年がすぎた。
百年経たずに、かの政経塾を出た何人かの政治家が日本の中枢にたどり着いている。
首相にまでなったいわば出世頭は、このたび野党第一党の党首に返り咲いた。
今ひとりは、事実上の新首相選びで急激に支持を伸ばしているのだとか。
わたしはどちらの党員でもないが、正直、片方には党首になってほしくなかったし、もう片方には絶対首相になってほしくない。
一番避けたい2人が、両方とも同じところから出てきたというのは、偶然ではないと思う。
政治信条は置いておくとしても、どうも本質的な部分でかの学校?とわたしはソリが合わないようだ。
おそらく高校生の時のわたしの予感は正しかった。
こうなるとあの世の松下幸之助に、恨言の一つくらい言ってもいいのではないか。
百年経って、どうも大失敗でした、では目も当てられない。