知人の死、果たされない約束。②
学業を終え、地元に就職した私と彼女の付き合いはゆる~く続いた。たまに店に顔を出し、食事を一緒にしたり、彼女の家を訪ねたりした。
すると、次第に彼女の生活実情も知ることになるわけだが、彼女がシングルマザーだということは前から聞いていた。そして、子供の父とは違う交際相手がいることも。わりとあっさり、あけすけに、彼女は愛人をしているのだと口にした。
「おとうさん」と彼女が呼ぶその人は、他に家庭を持っていた。本業の他にアパートを経営。彼女に、自分が営むアパートの一室を与えて管理人をさせ、生活費を渡し、時々、部屋を訪れては彼女と交際を続ける。都合のいい器用な二足わらじを履く人だった。
彼女の存在は「おとうさん」の妻も知るところだった。どう思っていたのだろう。彼女の勤め先に顔を出すなど、別れて欲しい素振りはあった。しかし二人の交際は続き、けれどそれ以上の行動(慰謝料請求など)に発展することはなかったようだった。
そうして彼女は自分の子育て(孫含む)などの生活費を「おとうさん」に頼り、「おとうさん」は見返りに愛人関係を求めた。そういう付き合い方なのだな、と、私の目には映った二人だった。
不倫は、倫理的に問題のあることだ。また最終的に誰も幸せにはしないものだと私は思うが、犯罪ではない。そも恋愛事とは当事者間の問題で。無関係の人間が口を挟むことではないし、余計拗らせるだけでしかない厄介なものだ。
基本、外から何を言ったとて無駄、と私は思っている。(それでも確か、忠告はしたと思う。が、もちろん効き目はなかった)
彼女には複数子供がいたが、「おとうさん」との子供はなく、彼女の子供は前の御主人との子だけだった。ただ、二回堕ろしている、とは後々に聞いた。
おそらくは優に20年以上。愛人関係は続いた。彼女は時折、「おとうさん」とのことを述懐し、「おとうさんとはもう別れないと思う」と言っていたが、やはり人生。終わりはあった。
それは「おとうさん」がアパート経営から身を退き、しばらくした頃。たぶん、「おとうさん」が自らの人生の現役引退を決めた時、だったんだろうと思う。
退職し、これからの老後を考え、残りの人生をどう生き、どこでどう死を迎えるのか。といったようなことを誰しも考えるのだろう。
妻子の住む家を新しく整えたと聞いた。アパート経営を売っても処分した。「おとうさん」は数年を掛けて身の振り方を決め、入念に準備をしたのだ。
そうして「おとうさん」は結局、妻子を選んだわけである。