1年生『ひき算』(『のこりはいくつ』『どれだけおおい』)のデザイン おはなしづくり/図の指導/子どもの言葉でつくる算数授業
今回は1年生のひき算の単元『のこりはいくつ』『どれだけおおい』の単元を紹介します。主に紹介するのは、ひき算の意味を理解する単元前半が中心です。
ひき算の単元に入る頃は、おそらく1年生も入学して3ヶ月弱。きっと学習に慣れてきた頃ではないでしょうか。板書を子どもたちと一緒に作っていきたいと思ったり、ノートの指導も本格的に始めていたりするなど、子どもたちと授業をつくるために様々な取り組みをしていることと思います。
今回紹介する板書を振り返っても、この頃には子どもたちは黒板に書きながら説明をするようになり始めています。ただ、私自身、いわゆる「スタンダード」のような形での指導はあまり好きではありません。「かきたい!」「話したい!」を生かして指導をしています。
ひき算の指導のイメージと共に、学級の子どもたちの成長のイメージも伝わればと思っています。
1.1年生のひき算 「求残」と「求差」から
1年生の計算領域の内容は意外と難しいのです。
初めはただのひき算だと思っていました。しかし、同じ式のひき算でも様々な種類があるのです。
例えば、学習指導要領には以下のような解説があります。
同じひき算でもその演算(ひき算)が適用される背景が違うのです。例えば、5ー2=3の式で考えてみます。
アイスが5本あります。2本食べました。残りは何本ですか。(求残)
いちごアイスが5本あります。バナナアイスが2本あります。どちらがどれだけおおいですか。(求差)
こう見ると、求残の問題はアイスの量の時系列的な変化であり、求差は同質の量の差をみていることがわかります。
このひき算の違いを1年生に教えるのです。考えるだけでハードルが上がります。
「こういうものです!」と説明しても分かるのはほんの一部の子どもたちでしょう。そのために、ひき算(計算)単元では、絵を媒介にした「おはなし」と「図」を子どもが書いていくような手立てが必要となるのです。
もちろん、ブロックの操作も必要です。ただ、分かりきってしまう子も多くなるので、全員で同じ動きをさせることは私はしません。ブロックで考えたい子は考えていいし、ブロックで操作しなくても図でかける子はどんどん図を描いて良いと思っています。自分の思考を組み立て、表現する手立ては自分で決めることが1年生でも大切です。(操作の仕方、図の描き方を指導する時は当然全員でやります。)
2.『のこりはいくつ』(求残)の指導
それでは、はじめのひき算の単元の紹介です。
単元名が『のこりはいくつ』なので、当然「求残」の単元です。先ほども「量の時系列的な変化」と述べたように、時間の流れをつかむことが必要となります。そのための手立ては以下の通りです。
操作可能な絵を提示する
「はじめに」「つぎに」「さいごに」カードで「おはなし」づくり
「おはなし」を図で表す
この手立てを通して、子ども自身がひき算を理解できるようになることを目指します。すると、理解だけにとどまらず、自分で表現できるようになっていきます。
1時間目「どんなおはなしかな?」
はじめてのひき算は、「どんなおはなしかな?」教科書にある金魚の絵を提示してはじめます。
黒板左に「はじめに」のカードを貼ります。
そして、チョークで四角を描き始めると「しかく?」「なんのおはなしかな?」と子どもたちは見つめます。「上がない!」「何か入るの?」と不思議そうです。赤い魚を貼ります。そうすると「あ!すいそうにお魚が5匹いる!」と子どもたちはわかります。そこで「すいそうにおさかなが5ひきいました。」というこどもたちの考えた「おはなし」を板書します。もちろん、「それなら水をいれてあげようよ!」という可愛らしい発言も出てきます。
今度は、黒板左に「次に」のカードを貼ります。
そして、2匹の魚を水槽から出しました。「金魚がいなくなった!」「金魚が逃げた!」と大騒ぎ。そこで、板書は「魚が2匹いなくなりました。」となります。「魚は誰かに取られちゃったんだよ。」と、子どもたちが自分たちで考えたおはなしを楽しみながら話しているので、「それならあみが必要だね。」とあみを書いてあげます。
こうした魚を動かしながらやりとりをするのは、絵で表された「結果」だけでは、子どもたちの理解する問題場面が意外と異なるからです。板書の中央には「ふえる」と書かれています。この発言をした子は、「魚が水槽のそばにいる」という板書上の「結果」を「他のところから連れてこられて2匹そこにいる」と認識し「ふえたの!」と発言しているのです。「はじめに5匹いました。」は、その瞬間の思考から抜け落ちてしまっているです。だから、何度でも再現できて、目の前で動く「絵」が子どもたちの問題把握に非常に役立つのです。
ようやく「さいごに」のカードを貼ります。
たし算でも同様な「おはなしづくり」をやっていたので、子どもたちは「さいごに」にくるのは答えを問う文言が入ることを知っています。「何匹って入るかな?」などと話すので、「〇〇〇はなんびきでしょうか。」と板書し、「のこり」という点に注目させます。
こうして、絵から「おはなし」が完成です。そして、「答えは?」と問うと、子どもたちは笑顔で「3!」と答えます。「本当に?」とこちらも笑顔で問い返すと、「だってね!」とある子が前に来てブロックを5枚貼りました。そして、「いなくなったんだからブロックを2個動かす。」と図でも計算が明らかになりました。
最後に「この計算を式に表すと5−2=3とかけるね。」と式を指導して1時間目は終わります。
2時間目「せつめいできるかな?」
2時間目です。教科書上は練習問題が多くあるので、練習問題を取り組みます。
この場合の練習問題では、教科書の文章を読ませて解いてしまうと、文章を読まずに数字で当てはめる形式的な操作に偏ってしまうことを避けたいです。単元のはじめですから、ひき算(求残)の意味を様々な場面で味わうことを大切にします。
そこで、「せつめいできるかな?」として、2つの問題に取り組みました。
1問目の絵で子どもたちが作ったのは「にわとりが3わいました。にわとりが2わにげました。のこりはいくつかな。」です。こうしておはなしを作った後に「式を書いてごらん」と促します。
ノートに書いた式を聞くと「3+2」が出てきます。子どもたちは「?」という反応です。その子は上で述べたように問題文の数だけを抜き出し、既習で慣れているたし算にしたようでした。
「式は3−2だよ!」と声が上がるので、「どうしてそうだと言えるの?」と聞くと、子どもたちは自分たちで一生懸命説明を考えます。
中央下の⚫︎⚫︎⚪︎(アレイ図)の図も子どもたちがかいたものです。指の絵は前に出てきた子がにこにこしながら3の指を作り、「2羽いなくなったらね、1、2、残った指は1本!」とした説明を板書しました。
こうして,クラスの子の困りから「その子のために説明したい!」が生まれ、自分なりの表現を通してひき算(求残)の意味が理解されていくのです。
次は2問目です。展開は1問目と同じなので省略します。
ここで指導したのは「→」です。
1問目の⚫︎⚫︎⚪︎の図が明らかになった後、「この図はこうかくこともできるね。」と矢印をかいた図をしょうかいします。この矢印が後々の求差との違いを明確にする上でも重要なので、矢印でいなくなったことを表現できると伝えます。
2問目はその矢印を使ってかいています。
おまけ:6時間目「答えが□になるひき算は?」
おまけです。単元の終盤で、「答えが□になるひき算は?」という問題に取り組みました。授業の流れは以下の通りです。
子どもの発表をカードに書く
カードをランダムに貼る
子どもが「きまりがあるよ!」「ならべかえたい!」という発言を引き出す
じゃあ答えが「4だったらどうなるのかな?」と問いかける
同じきまりがみえることを確認する(差の数にも着目させたい)
以上が、『のこりはいくつ』の指導でした。
こうして絵から「おはなし」「図」と関連付けていくことで、子どもたちの理解が深まります。その後に、計算練習に取り組んでいくのです。
そして、子どもが絵を見ながら想像を膨らませてその場面を語るとき、その子の頭の中にはひき算の世界広がっているのだと思います。
一人、また一人とひき算の世界を共有する子が増えていくことで、多くの子がひき算の世界に入ることができるのではないでしょうか。
遠回りかもしれません。
でも、子どもの素朴な言葉をつなぎ、その子どもたちの言葉で授業をすると、他にはできない、自分たちだけの楽しい算数になるのではないでしょうか。
文字数が多くなってしまったので、求差の指導は次回とします。
ありがとうございました。
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