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感情のない男(ショートショート)

歳を重ねるたび傷は増えていく。

癒す間もなくまた傷がつき
それでも歩みを止めることはできない。

満身創痍で進み続けるうち
いつしかなくしてしまった。

みんなが笑っているとき
何がおかしくて笑っているのかわからない。
みんなが悲しんでいるときも
怒っているときも喜んでいるときも
感動しているときも僕には理解できなかった。

でもそんな自分を認められなくて
まわりの人間に知られるのも
怖くて必死にまわりに合わせた。

僕は感情のない男。
人として大事なものが欠落していると思った。

ある日、高校時代の同級生の結婚式のため
久しぶりに地元へ帰った。
結婚式ではみんな感動していた。
僕以外は。

二次会もおわり友人の恭介と二人
肩を並べて歩いた。
学生の頃は毎日のように二人で
帰っていたのに、今では連絡も
ほとんどとらなくなっていた。

「懐かしいなぁ。お前とこうやって歩くの。」
「そうだな。
 今日の結婚式いい式だったな。
 スライドショーで学生の頃の写真も出てきたりして。
 いろいろ思い出したよ。感動したなぁ。」

恭介になら話してみてもいいかもしれない。
ふとそう思い、僕は自分のことを彼に話した。
みんなと同じように笑えないこと。
感動しないこと。
人として足りないものがあるんじゃないかと。

「ふーん……それってすげぇ人間らしいじゃん。」
「え?」
「みんながみんな同じものを見て同じように
 思うほうが気持ち悪いじゃん。
 お前は欠けてもないし足りなくもないよ。」
「そうか……ははっ。」
「なんだよ急に笑い出してきもちわりぃな。」
「あぁわるい。昔のこと思い出してさ。
 高校の頃、ふたりしてめちゃくちゃハマってた
 漫画があったろ?あれの最新刊が出たときに
 おまえが読む前だったのにおれ、思わず
 ネタバレしちゃってさ。そうしたらお前
 顔真っ赤にして『この人でなしがー!』って
 信じられないくらいブチ切れてさ。」
「あぁあったなそんなこと!
 人生で一番怒ったよ。なんでそんなことで
 あんなに怒ったんだろうな。」

二人で声を出して笑った。
心の底からおかしくて
久しぶりに涙が出るほどよく笑った。

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