人間が30歳になったら女→男に性転換する生き物になったら、というお話
人間は進化する。
生物の中には昔から一生のうちに性別が変わる
「性転換」というものがあった。
そして人間もみな女で生まれ30歳を過ぎたら
男に「性転換」する生き物となった。
女性は30歳まで学業と出産に専念する。
そして30歳を過ぎたら男性となり働くことに専念する。
少子高齢化の問題は解決。
労働力不足の問題も解決。
みな平等に学び、平等に働く機会が与えられた。
人々は真の男女平等を手に入れたのだ。
だが、私は30歳を過ぎても「性転換」できずにいた。
「ホルモンの異常ですな。
問題ありません。薬物治療ですぐに
男性になれますよ。」
男性の医師が言う。
「異常ですか……これは病気なのですか?」
「もちろん、病気です。」
「私は男性になりたいとは思っていません。
このまま女性のままでも構わないんです。
それでも治療を受けなければなりませんか?」
「女性のままで?!あり得ませんよ。
女性にできる仕事はありません。
どうやって生きていくのですか?」
「でも以前は看護師や保育士なんかは
男性より女性のほうが多かったじゃないですか。」
「それは大昔の話です。
仕事は男がするものです。
とにかく、治療のスケジュールを組みましょう。」
「……少し考えさせてください。」
病院を後にし家に帰った。
家族に相談したが、みな一様に治療をするべきだという意見だった。
「家族に男にならない人間がいるなんて恥ずかしい。」
「異常だよ、早く治療するべきだ。」
「このままではここに君の居場所はないよ。」
夜、布団に入りながら考えを巡らせた。
「性転換」しない旧人類と「性転換」する新人類の
争いは長く続き今の社会の仕組みが確立されるまで
相当な時間を要した。
はじめは異常と思われた新人類は、やがて進化とされ
旧人類はその数を減らし絶滅した。
いつの時代にもマイノリティは存在する。
その存在は認められても居場所はどこにもない。
社会の仕組みが変わるには大きなインパクトと
長い長い時間が必要なのだ。
明日、病院に行って治療を受けよう。
私に残された選択肢は他にないのだ。
結局私はこの世の中に抗えない。
そうでなければ何の権利も与えられないのだから。