カーテンコールを追いかけて 第2話
自宅の部屋で晴人が頭を抱えて机に向かっている。落書き程度の話のメモが隅にあるが大半が白紙のノートを見つめる。
晴人「どうしよう。全然書ける気がしない」
回想、決起会でうゆが目を輝かせる。
うゆ「はると君は、今までどんな作品を書いたことがあんの?」
晴人、気まずげに目を逸らす。
晴人「え〜と、ファンタジーとか、SFとか、色々……?」
うゆ「え、しおりちゃんは学園ものでしょ?なんでも書けんだね」
晴人「もうしおりの話は忘れてくれない?」
うゆ「じゃあうゆも頑張んないと。いろんなキャラクターができるように練習してこ」
晴人のモノローグ:どうしよう、一回も作品書き上げたことないって言えない雰囲気だ。言わなきゃいけないのに。
うゆが期待して笑顔を浮かべているのに、汗を流す晴人。
うゆのイメージ:は?一回も作品書いたことない?嘘つきじゃん。信じらんない。
晴人のモノローグ:言えね〜!いや自分から作品書いたなんて言ってないけど!加藤さんもここまで言わないと思うけど!
うゆ「ん、どしたん?汗がすごいけど」
晴人「うん、頑張らないと」
うゆ「あたしの話聞いてる?聞いてない?」
気まずげに目を逸らす晴人。
回想から戻った晴人も、同じ表情で白紙の多いノートを見る。
晴人のモノローグ:せめて今から作品を書き上げて嘘を本当にしようと思ったけど、ダメだった。正直に言って、断った方が良さそうだ。あんなに期待させているんだから。
期待していたうゆを思い返した晴人、ため息を吐いてベッドに入る。枕元の時計は22時45分を指している。
翌日、登校した晴人が昇降口で靴を履き替えていると肩を叩かれる。振り返るとうゆがいる。
うゆ「おはよう、はると君!」
晴人「お、おはよう……」
気まずそうに目を逸らす晴人、不思議そうに覗き込むうゆ。
うゆ「あのね、劇をするには他にも仲間がいないといけないじゃん?だから劇団員?募集みたいなチラシ作ってみたの!どう?」
あまり上手くないイラストと共に「劇団員募集!君も一緒に劇をしよう」という言葉が入ったチラシをうゆが見せる。晴人がそれをみて顔を引き攣らせる。
晴人のモノローグ:加藤さん、思った以上にやる気だ……!
晴人「い、いやチラシはちょっと気が早いんじゃない?」
うゆ「そう?こう言うのは思い立ったらちき日?ってやつだと思ったんだけど」
晴人「それを言うなら吉日だね」
晴人のモノローグ:早く伝えた方がいいけど、今言うのは良くないよな……中休みあたりの落ち着いた頃合いにさらっと言えば……。
その後も教科書を忘れたので見せて欲しいと言ったり、呼びかけてくるうゆの顔を見れずにおざなりに対応してしまう晴人。困った様子のうゆ。
晴人のモノローグ:いや中休みは短すぎてだめだ。昼休みの時にちょっと話せば……。
いや昼休みなんて長い時間だとそのあとが気まずすぎる、放課後に話してそのまますぐ帰れば……。
コータ「おい、晴人!」
晴人が我に帰ると、菓子パンを持ったコータがいる。手元には弁当。
コータ「お前今日はいつにも増してぼんやりしてんな。朝から変だぞ」
晴人「そ、そうかな」
コータ「なぁ昨日、加藤さんと何かあったのか?」
コータの発言に驚く晴人。焦りながら聞き返す。
晴人「な、なんもないよ。なんで」
コータ「なんでってお前、今日加藤さんにめっちゃ話しかけられてたじゃん。ぼんやりしてて気付いてないみたいだけど」
晴人「そうだったのか?」
コータ「そうだよ。なんか知らんけど、困ってたみたいだぞ。なんでもいいけど、喧嘩は良くないんじゃないの?」
晴人「喧嘩じゃないよ。でもそうだな、ありがとう」
コータ「おぉ、がんばれ」
晴人のモノローグ:困らせたいわけじゃないんだよな。むしろその逆で。ちゃんと話をしよう。
放課後、晴人が話しかけようとすると先にうゆが声をかけてくる。
晴人のモノローグ:よし、加藤さんに話しかけるぞ……「今少し、いい?」、なるべく簡単に……。
うゆ「木之本君、今少しいい?」
晴人「え、うん」
うゆに連れられて、自動販売機横のベンチまで来る。振り返ったうゆが頭を深々と下げた。晴人が慌てる。
うゆ「木之本君、ごめん!」
晴人「え、どうしたの加藤さん。とりあえず、頭を上げて……」
うゆ「昨日のこと、どうやって断ろうかずっと悩んでいたでしょ」
図星を指されて、晴人が絶句する。顔を上げたうゆが困ったように笑う。
うゆ「いきなりあんな話されたら冗談だと思うよね。なのにあたしったらどんどん勝手に突っ走っちゃって……他のメンバーを集めるためのチラシ作ったりとか、勝手に興奮してさ」
晴人「いや、加藤さんのせいじゃなくて」
うゆ「ううん、大丈夫!昨日の話は忘れてくれていいから」
手を振るうゆの苦笑に、晴人はショックを受けて拳を握りしめる。
晴人のモノローグ:加藤さんは、色々考えて動いているのに、俺は作品1つまともに完成させられない。それに加藤さんは俺のことを思って諦めようとしているのに、俺は自分のことばっかりだ。情けない。それに、
昨日の回想。晴人がうゆの手を掴み、うゆが笑顔になる。
晴人のモノローグ:あの時、俺は加藤さんに言われたから仕方なく、じゃない。自分で手を握ったのに。夢を見たのは、俺なのに……。
晴人「加藤さん!」
うゆ「え!?声でっか」
晴人「ごめん、あと1日待って欲しい。俺からも話したいことがある。明日また放課後、ここに来てほしい」
うゆ「あ、うん。わかった。1日くらいなら……」
真剣な表情の晴人に、不可解ながらも頷くうゆ。ガッツポーズする晴人。
晴人「よしっ!ありがとうそれじゃあ明日!」
うゆ「え?!木之本君!?」
うゆを残したまま走り去り、教室に滑り込む晴人。コータが荷物を持って近寄る。
コータ「どこ行ってたんだよ晴人、帰ろうぜ」
晴人「本当にごめん、コータ!急用ができた。先帰る」
コータ「あ、おい」
走り去る晴人。唖然とするがため息をつき苦笑いを浮かべるコータ。
コータ「ま、元気になったならいいか」
自宅に滑り込む晴人。出てきた母親が驚く。
母「晴人、一体どうしたの騒々しい」
晴人「ごめん母さん、今日忙しい!ご飯いらない!」
母「は? あんた何言ってんの」
晴人、自室に飛び込む。母、首を傾げながら閉じたドアを見つめる。
自室で机に向かう晴人、白紙のノートに凄まじい勢いで書き込む。
夜の2時になっても作業が続いている。
翌日、母親が晴人を起こしに来る。
部屋の中央でひっくり返っている晴人。机の上には文字で埋め尽くされたノート。
母「あんた、いつまで寝てるの!遅れるよ」
晴人「は、まずい!」
晴人が飛び起きる。ノートを引っ掴んでカバンに入れる。
学校に登校した晴人を見て、昇降口で会ったコータがギョッとする。
コータ「おはよう晴人……ってお前大丈夫か!?すっごいボロボロだけど」
晴人「大丈夫大丈夫」
コータ「だ、大丈夫って顔じゃないけど」
二人はそのまま教室に入る。まだうゆは登校していない。
晴人のモノローグ:今日はまだ加藤さん登校していないのか。と言うより、加藤さんはこれが当たり前だったか。
昨日、時間通りに登校したのって、それだけ期待してたってことなのかな……。
昨日のチラシを持ったうゆを思い出して晴人は胸を痛める。
チャイムがなり、教師が入ってくる。と同時に教室の後ろのドアからうゆが入ってくる。
教師「おい加藤!遅刻だぞ」
うゆ「えへ、ごめんなさーい」
ニコニコとしていたうゆは、晴人を見てギョッとする。
うゆ「木之本君、大丈夫!なんかボロボロじゃない」
晴人「うん、大丈夫大丈夫。それより放課後、よろしく」
うゆ「う、うん」
釈然としない様子のうゆが、そのまま席に座る。
放課後、自販機横のベンチにやってきたうゆに、ノートを差し出す晴人。
うゆ「どうしたの木之本君」
晴人「まずはこれを見てほしい」
うゆ「うん。何これ?」
晴人「俺の初めて書き上げた作品」
うゆ「初めて?」
ノートを開いたうゆ、驚いて顔を上げる。
晴人「そう。俺、作品を仕上げたことがなかったんだ。昨日、仕上げたところ。だから昨日の時点では、俺1作品も書き上げたことがなかったんだ。だから加藤さんの期待が重かった」
うゆ、黙って晴人を見つめる。晴人、震える手をもう一度握る。
晴人「多分、加藤さんって俺が作品をバンバン書いているイメージだったと思う。だからそれを正直に言って、幻滅されるのが怖くて……いや違うな。そういう人だって言うのが、俺が嫌だったんだ。夢に向かおうとしている加藤さんに言えなかった。実力を考えたら、加藤さんの期待に応えられるかわからないけど、期待してくれた加藤さんに応えられるくらい、頑張ろうって決めた。だから、もしよければ俺の作品をいつかやってほしい」
晴人が手を差し出す。うゆは晴人を眺めたあと、ノートを捲る。
何ページにもわたって文字で埋め尽くされている。
うゆ「これ、昨日だけで書いたの?」
晴人「うん。急いで書いたからあっちもこっちもおかしいかもしれないけど……」
うゆ「これだけ書くのは大変だったでしょ。だから今日、隈がすごいんだ。変なの、断ればそんなことしなくて済んだのに。別に小説書くのは、あたしがいなくたってできるのに」
隈を指摘された晴人は気まずそうに目を逸らしたが、最後のうゆの言葉に目線を合わせる。
晴人「俺が、君に演じてもらうキャラを作りたいって思ったんだ」
うゆが晴人の手を握る。
うゆ「うん。これからよろしくね」
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