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ランダム単語ストーリー ナップサック問題✖︎ワードローブ


 "世の中って広く浅く、色んな視点で見るコトが大事なんだで"と、クセの強い教授がかつて言っていた。

 普段は自論を話す時には極端なことしか言わない。貧富の格差を無くすには、社会主義を徹底すれば良いとか、人類が絶滅すれば世の中マシになるとか。

 今になってわかる。人類など滅べばいいと。目の前にそれが現れた時、かの教授の言葉がどれだけ身に染みるか。

 "ナップサック問題"

 別の講義の課題だ。この問題は、ナップサックの中にできるだけ多くの品物を詰め込み、中身の総価値を最大にするという問題だ。条件はナップサックの容量を超えないこと。また、ナップサックと品物のサイズは決められている。

 そしてこの課題に取り組むに当たり、下調べを行ったのだが、ネットに乗っている情報では、どうやらプログラミングを用いて解く問題らしい。

 アホ抜かせ。

 プログラミングなんてほとんどの大学生がわかるわけないだろう。あの臨時講師舐めてんのか?この時ほど、教授の名言集が脳裏にパラパラとめくられては飛び出したことは無いだろう。

 ・・・いや、やめよう。冷静になって考えてみれば活路は見出せる。


 問題文をもう一度見直そう。『容量80リットル入るナップサックの中に以下の品物を入れるとして、一番総価値の高い組み合わせにするにはどの様な手法を用いれば良いか。』というのが問題文だ。

 普通に考えれば、小さくて高価な品物を入れれば良いのではなかろうか。多く入れるべきはそれだ。残りは容量と価値のバランスが上記に近い物を入れれば良い。

 これなら価値の観点では高くなるはずだ。単純だが、この考えで良い。

 まずはこれで計算してみよう。・・・いや、微妙に余る。ただ、これ以上に小さいものは無い。つまり容積を余してしまった。

 では組み替えてみて、次のパターン。容積を余さずに考えるんだ。各品物を均等に入れてみる。これなら余さずにいけるが、総価値はそこまで高いとは言えない。

 何か入れてはいけない物があるはずだ。この品物は一番価値が高くないので、候補から除外しよう。この上でまずは一つずつ入れて、各品物があとどれほど入るか割り出そう。

 これを按分していけば・・・よし、総価値が今までで一番高くなった。

 何とか課題はクリア出来た。少し部屋が散らかっているな。ワードローブから服が出しっぱなしだ。というか服を買いすぎてしまっている。

 この際だから、整理のついでに断捨離をしよう。私服と作業着とスーツを一着ずついれて、いらない服は候補から外して、上手く按分していけば・・・

 何故ナップサック問題のように整理しているのだろう。別に服を整理するなら直感で要不要を判断すればいいだけなのに。

 というか、これ、便利過ぎないか?今までで一番しっくりくる収納になった。

 ワードローブの整理で気づいてしまった。このナップサック問題の原理を応用できれば、世の中の作業がきちんと片付くのでは?

 今後の整理にも使えるし、予定をたてるのにも使える。対象が有形無形問わず使える。

 これはいいぞ。生活に実りが出るってもんだ。いいじゃないかナップサック問題。人類を絶滅させたいとか考えてた自分自身が馬鹿馬鹿しい。

 ・・・人類絶滅?


 ふと考えてしまった。地球という存在が、例えばナップサックのようなものだったら。自然という物が一番価値が高い。だが大きい。ただ、これは単なるナップサック問題では無い。

 共通点は組み合わせが大事ということ。違いというのは品物がすでに全てある。ナップサックのように、入れる事を前提とするのではなく、目の前の整理されたワードローブのように、既にあるという事が前提である。

 言い換えれば、これは"ワードローブ問題"なのだ。この整理された空間を維持するには、どのような選択を取ればいいのか。つまり総価値を高めるのではなく、維持するのだ。


 では、地球の中見の総価値を高く維持するのであれば、低くする要因は何だ?

 人類じゃないか。

 では、人類を絶滅させるには?社会を崩壊させる?いや、それと絶滅には結びつかない。・・・そうか、文明を滅ぼすほうが早い。

 社会を人間社会から自然社会にすれば良い。そうすれば、人間も自然の一部になる。自然の中で暮らせば良いのだ。

 では人類全体を自然社会にするのは・・・宗教だ。宗教は社会を形成する。自然を信仰すれば、自然の価値は今より高くなり、やがては高水準で維持されていく。

 やることはわかった。僕が教祖になって、自然信仰を行うんだ。信者は樹海から救って集めれば良い。

 そうと決まれば、明日にでも退学届を出そう。来週には静岡まで歩いて向かえば良いだろう。

 

 ー 青年は大学を退学し、静岡へ向かう。ナップサック問題と出会わなければ、彼はその選択を決断しなかったであろう。いやむしろ、極端な教授との出会いがなければ、その選択肢自体が無いはずだ。起爆剤というのは、常にしょうもないものなのかもしれない。


 

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