90s Hiphop 名盤 / Mobb Deep「The Infamous...」(1995)
ニューヨーク、クイーンズ出身のハヴォック(Havoc)とロング・アイランド出身のプロディジー(Prodigy)、二人のMCから成るモブ・ディープ(Mobb Deep)の2ndアルバムにして、The Source誌レビューで5本マイクを獲得した彼らの最高傑作とされるのが本作だ。
本作の2年前に彼らはデビュー・アルバム「Juvenile Hell 」をリリースしているが、シングル・カットされた「Peer Pressure」(オリジナルverはDJ Premier、RemixはLarge Professor制作)が一部で人気を博したものの、US盤はPromo Onlyでシングルが切られた「Hit it From the Back」など当時のトレンドであったニュー・スクール然とした楽曲の質は、お世辞にも高いとは言えなかった。
しかし、同郷のNasが傑作「Illmatic」(1994)を、The Notorious B.I.G.が「Ready To Die」(1994)リリースした後の、ハードコアなヒップホップをシーンが求める風潮は彼らにとって追い風となった。
デビュー・アルバムよりも格段に完成度を増して、「これぞニューヨーク産のハードコア・ヒップホップ」と、世界中のヒップホップ・ヘッズたちの首を縦に振らせたのが本作だったのである。
Shook One's. Pt.Ⅱ
総じて楽曲の質が高いアルバムではあるが、ハイライトとなるのはシングル・カットされた「Shook One's. Pt.Ⅱ」。ここに異論を挟む余地はないだろう。エミネム主演の映画「8 Mile」でも使用されたことでも有名なこの曲はイントロから緊張感の高まるハイハットの音色、歌い出しから自らを「Official Queensbridge Murderers」と称するように、全面的にハードコアなマナーの2MCがパンチ・ラインを連発する正真正銘のHiphop Classicだ。
「The Infamous...」のサウンドプロダクション
「Shook One's. Pt.Ⅱ」以外にも、不穏なイントロとウワネタのループが中毒性高めの「Survival Of The Fittest」、The Abstract(=Q-Tip)が制作に関わった「Give Up The Goods (Just Step)」、「Temperature's Rising 」などシングル・カットされた楽曲はいずれもクオリティが高い。
アルバム全体は凍てつくような緊張感に満ちたハードコア・ヒップホップではあるが、Rare Groove的なサンプリング・センスが絶妙のアクセントとなっている。
次作の3rdアルバム「Hell on Earth」ではさらにハードコア路線が突き詰められ、サンプリング感は退行していくこととなったが、やや単調になってしまったきらいはあり、
セールス的には成功を収めたがアルバム・トータルの完成度で言えば本作に遠く及ばないだろう。
まとめ
Mobb Deepとはデビュー時にはニュー・スクール路線、2nd〜3rdではハードコア路線、4thアルバムではパーティー路線の楽曲も取り入れ、7thアルバムではG-Unit Recordsに移籍するなど、
基本的にはトレンドに沿って変化を続けていったグループであったが、「Illmatic以降」のシーンのハードコアヒップホップを求める風潮とピッタリ合致した本作が最も彼ららしかっただろう。
どの曲をシングル・カットしても良いのでは?と思わせるほどに完成度は高く、全編ダークなカラーのアルバムではあったが、
珠玉のサンプリング・センスによって仄かな暖かみもプラスされていた。
僅かに差し込まれる光が、より影を強調する、
Hiphop史に残る傑作アルバムだと言えよう。