90s Hiphop / Group Home「 Livin' Proof」(1995)
Pete Rock、Large Professor、RZA、Q-Tip、Diamond D、etc.. 1990年代の東海岸ヒップホップ・シーンではさまざまなプロデューサーが活躍し、鎬を削っていたがその中でも最もPropsが高かったのが当時のニューヨークHiphopを代表するユニット、Gang StarrのDJ Premierであったことに異論を挟む余地はないだろう。
そんなDJ Premierが全面プロデュースで本人が「作った時にヤバいと思った」とまで自画自賛した逸話も残る作品が本作だ。
Gang Starr Foundationの一員として活躍してきたGroup Home
アメリカで「マイノリティや低所得者たちが暮らすゲットーの集合住宅」との意味がある「Group Home」はリル・ダップ(Little Dap)とナット・クラッカー(Melachi The NutCracker)の2MCからなるヒップホップ・ユニットだ。
リル・ダップはDJ Premier率いるGang Starr Foundationの一員として、Gang Starr三枚目のアルバム「Daily Operation」(1992年)に収録された「I'm The Man」にジェルー・ザ・ダマジャ(Jeru the Damaja)と共に参加。
MCに合わせて三種類のDopeなトラックに切り替わっていくこの曲での、いかにもゲットー出身のMCらしい緊迫感のある客演はシーン内で話題を呼び、ニューヨークの耳の肥えたヒップホップ・リスナー からも「Group Homeは本当にイカれている(※褒め言葉です)」と評されていたことを記憶している。
さらにGroup Homeの二人はGangstarr、1994年のアルバム「Hard to Earn」では「Speak Ya Clout」と「Words from the Nutcracker」の二曲に出演、着実にシーン内で存在感を増していった。
Group Home「 Livin' Proof」リリース前のヒップホップ・シーン
この頃、DJ Premierはキャリアの全盛期を迎えつつあった。彼にトラックを依頼するラッパーは後を断たず、彼もまたNotorious B.I.G.「Unbelievable」(1994年)、Nas「NY State of Mind」(1994年)をはじめ、素晴らしいプロデュース・ワークで応え、「DJ Premierの名前がクレジットにあれば内容を聴かなくても買う」というDJも多かったのがこの時期だった。
余談にはなるが筆者も95年当時、DJ Premierのプロデュース作品はもちろん、彼がラジオでプレイした曲。とレコードのキャプションにあれば全て買っていた。そう、DJ Premierとは名前だけで信頼に値する凄腕プロデューサーだったのだ。
そんなDJ Premierがフル・サポート、Gangstarr作品での客演から期待が高まり、満を持してリリースされたGroup Homeのデビューアルバムは、Nas「Illmatic」ほどではないが、リリース前から傑作であることが約束されているかのような雰囲気が漂っていた。
シングル「Supa Star」の衝撃
本作からシングルカットされた「Supa Star」は、Isaac Hayes「One Woman」をそのまま用いた重厚なイントロから、定番ブレイクビーツ「Funky President」を再構築した最高のドラムの鳴りが味わえる傑作だった。楽曲を構成するネタはメインループの後半に挿入されるウワモノとなるCameo「Hanging Downtown」を含めて、ヒップホップ・リスナーやFunk、Soul好きならば容易に入手できるようなレコードであったことも特筆すべきだろう。
ニューヨークのプロデューサーたちが、誰も聴いたことのないようなレコードをDigしてループを作ろうと躍起になっていた頃に、DJ Premierはアメリカ中どこでも手に入るような定番のレコードから、最新のヒップホップを作り上げることができたのだ。
ビートの組み替えや複数のサンプリング・ソースの組み合わせで、一聴しても元ネタが何なのか判別しにくいDJ Premierの音作りは、サンプリングというアートを一歩先に進めるものだった。
かつてライムスターのマミー・D氏が「DJ Premierはおもちゃのピアノからでもヒップホップを作ることができる」と評していたが、
誰もが知るレコードを最先端のヒップホップへと昇華させた、KRS ONE「Outta Here」、Notorious B.I.G.「Unbelievable」とこの「Super Star」を聴くと、その意見も頷ける。
そして、この「Supa Star」は当時のヒップホップ・ヘッズたちがニューヨークのヒップホップに、DJ Premierに求めるもの全てが詰まっていたと言っていい。
シングル盤は日本で総売り上げの7割を占めたという都市伝説のような話もあるが、ニューヨーク産のヒップホップが人気を集めていた95年当時を思うと頷けるところだ。
実際、Hiphop DJと呼ばれる人ならば、ほぼ全員がこの「Supa Star」を二枚持っていた。
「Supa Star」以外にシングル・カットされたハードコアな「Livin' Proof」も硬いドラムがDJ Premierらしい良作で、当時DJたちからは人気を集めていた。
そして、もう一枚のシングル「Suspended In Time」はThe Incredible Bongo Band「Pipeline」をサンプリング、サビでは女性コーラスをfeatしながらも、無骨な2MCのラップもあって彼らの硬派な印象は崩れなかった。
その他の収録曲では「Realness」「Up Against the Wall」あたりもドラムの鳴りが素晴らしい。
本作はアルバム全編通じてどこに針を落としても間違いのない、漆黒のDopeなサウンドの塊のような作品であった。
Group Home「Supa Star」はなぜ日本で異常に売れたのか?
近年では日本の昭和時代のCity Popが海外で人気を集めているように、「リリースされた本国よりも海外で人気が高まるアーティストや楽曲」というケースがしばしばあるが、Group Home「Supa Star」も本国よりも日本で異常なセールスを記録した一枚である。
なぜほとんどのリスナーが英語を話せない日本で「Supa Star」が人気を集めたかという謎解きを筆者が考えるに、
本作がリリースされた当時の日本でのDJブーム、そして「さんぴんCamp」(1996年)前年となる日本語ラップ・シーンの盛り上がりが原因であったように思えてならない。
まず、この時期の日本ではDJを志す若者が急増しており、特に世界有数のレコードショップの数・質を誇る渋谷界隈では、ニューヨークのハードコアなヒップホップが支持を集めていた。
ニューヨークのヒップホップを代表するプロデューサーDJ Premier、そして見るからにハードコアなスタンスの2MC、さらにDJにとっては二枚揃えてトリック(同じレコードの一部分を繰り返すDJテクニック)などにも使い勝手の良い構成となっている「Supa Star」(「 Livin' Proof」も同じくDJ的には使いやすかった)は、DJたちがこぞって二枚ずつ買っていく「マストアイテム」だったのだ。
さらに、「さんぴんCamp」(1996年)前年の日本語ラップシーンのハードコアなヒップホップへの渇望も相乗効果を生み、
キングギドラやブッダ・ブランド、マイクロフォン・ペイジャー、ランプ・アイ、ライムスターなどを求めていたヒップホップヘッズたちは、もれなく本場のハードコア・ヒップホップの象徴たる「Supa Star」を手に取っていたであろうことは想像に難くない。
まとめ
Group Home「 Livin' Proof」はNas、ビギーの登場によって盛り上がる95年当時のニューヨークのシーンを象徴する「どストレート」なハードコア・ヒップホップアルバムであった。
全てのプロデュースをDJ Premierが手がけたこともあり、アルバム全体として非常にまとまっていたが、逆に言えばそこが日本ほどは、本国アメリカでセールスが伸びなかった原因かもしれない(Nasやビギーと比べた際のMC二人のキャラ立ちや力量の違いも大きいだろうが)。
ともあれ良質なヒップホップアルバムとしてアメリカでも一定の評価を得た本作以降、DJ Premierの手を離れたGroup Homeはセカンド・アルバムをリリースするも、低調なセールスに終わりシーンからいつしか姿を消していった。(セカンドアルバム収録のEast NY Theoryは個人的には好きな曲だが)
今思えばDJ Premierありきの存在であった感は否めないGroup Homeであるが、本作が90年代ヒップホップの重要盤であることは間違いない。
読んでいただきありがとうございました。
こちらのブログではもっとさまざまなレビューを読むことができます
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?