見出し画像

1人追いかけ再生工場③ 『ほくろ毛』

遂に手に入れてしまった。

少年誌の最後にこっそり掲載された広告。

「私はこれで人生が変わりました」

トランプと札束を手にウハウハ笑うブサイクな男。よくある胡散臭い写真には『透視メガネ』とあり、12回分割払いで月9800円で購入出来ると書かれている。

これまで散々この手の商品に騙されてきた。
黄色い財布に、変な壺、無限TENGA。

どれもガラクタだった。
そして今回も結局やってしまった。
また、買ってしまった。



バイトから帰ると玄関に置き配されていた尼ZONEアマゾンの箱を見つけてあわてて部屋に運び入れる。

箱の中には乱雑に入れられた梱包材に囲まれ、見るからに怪しい緑のメガネが入っていた。


思えば透視メガネには昔から憧れていた。

クラスの皆がドラえもんにハマっていた横でおれはタルるート君と友達になりたかった。

毎日「みるみる~」と唱える度、まわりから友達が消えていった。

なんでも見えるはずの魔法は友達をなくす魔法だったわけだ。

駄菓子菓子、とうとうその思いも報われるのだ。

おれはその緑のメガネをカバンにつっこみ、大学へと向かった。




🟰🟰🟰

普段はさぼっている授業に顔を出したもんだから教室がザワつくかと心配したが、誰もおれの存在なんて気にしてないようだ。

透視メガネよりも先に透明マントをデフォルトで装備しているのかもしれない。

なんのはなしですか。

まあそんなことはどうでもいいのだ。

目指すはミキちゃんだ。
おれが恋焦がれるミキちゃん。
入学式の日に腹が痛くてトイレを探していたら、あっちですよと教えてくれた天使ミキちゃん。
おれはそれ以来ミキちゃんに恋に落ち、同じクラスだと知ってこれは運命だと思った。


流石に近すぎると気持ち悪いと思い、それ以来10mの距離を正確に保ちながらずっと追いかけている。

おっと、ミキちゃんのことを話し始めたら止まらなくなった。


よしよし、教室の後ろの方で友達と話しているミキちゃんの姿を確認し、おれはおもむろに緑のメガネを装着した。

瞬間、ぐにゃりと空間が歪んだ気がした。少しして目が慣れると......。




目の前のクラスメイトはみな服を着ていなかった。



🟰🟰🟰


「やった」

思わず声が出た。メガネの力は本物だった。


目の前に広がる無数のおっぱい達にありがたく敬礼しつつも、おれの目線はミキちゃんのおっぱいにたどり着いた。

何度も挑戦しながら悪天候に行く手を阻まれ、5度目の挑戦でようやく登頂に成功した登山家の気分だった。
頂上の景色は絶景だった。
おれは聞かれてもいないのに内心言ってやった。

「そこにおっぱいがあるから」


それにしても素晴らしい山だった。
これまでスマホの中で見た山の中でもダントツで美しかった。
おれはその山に見とれつつもメガネの縁にあるダイヤルを回した。


チチチチ


小さな音を立てて目の前の景色が拡大されて行く。

初めて双眼鏡を手にした少年のようにおれは無我夢中でダイヤルを回した。


チチチチチ


ミキちゃんのおっぱいが目の前1mの距離に近づいた。美しい山は近くで見ても美しかった。

「ほほぉ」

 

ところがここで1つ想像もしていなかったものが目に飛び込んできた。


右おっぱいの乳首の近くにほくろがある。
さらに、そのほくろから長い毛が1本生えていたのだ。


おっぱいから毛が生えている。


それはあかんよ。あかんあかん。
まだ若いねんし、きちんとケアせな。
もしくは気付いてないんか?んなわけないわな。


おれは昔から独り言は関西弁と決めている。


とりあえず、美しい山にほくろ毛はいらない。
なんとか視界からほくろ毛を消し去りたい。



🟰🟰🟰

そこから、どうやってほくろ毛を無くせばいいか、そればかり考えている。

直接言う?
いやいや、それはあかんやろ。
そもそも何でほくろ毛があることを知ったんかって話や。
下手したら、盗撮の疑いをかけられるかもしれない。おれは合法的に行動しているが、その説明を聞いてもらえるかも分からない。

ならばどうやって伝えるか。

散々考えた結果、ミキちゃんに直接伝えられるような関係になることを目指すことにした。

そう、ミキちゃんの彼氏になるのだ。




🟰🟰🟰


それからおれはミキちゃんの彼氏になるべく生き方の全てを変えた。


大学にも真面目に顔を出すようになった。
野田クリスタルばりの髪の毛も切ってきれいに整えた。
清潔感を第一に考えるようになった。


そして半年後、おれはミキちゃんの彼氏になっていた。


初めて二人で愛し合った夜、コトが終わって枕元でミキちゃんの裸をゆっくり見た。

緑のメガネ越しではなくて、初めて自分の目でミキちゃんのおっぱいを見た。

ほくろから生えた例の毛を見ながらつぶやく。

「これがあったから、今こうしてミキちゃんといられるんだよな」

「え、なんて?」

「なんでもないよ。大好きだよ」



ほんとに好きになると、ほくろ毛すら愛せることを初めて知った。







ゆったんパイセン、急に工場しばらく休むって聞きました。
寂しいですけど、自分は今のうちにパイセンに追いつけるよう書いていきますね。
とりあえず買ってきたファンタオレンジはおれが飲んでおきます。


ちなみに、こちらのお題は既に一度再生していました。

全く違うテイストの話になりましたが、どちらも大事な作品です。

読んでいただけますと、とても励みになります!






最後に今日の勝手に記事紹介です。

アルロンさんです。
ワールドブルー物語の一編なのですが、そんなの気にせず一つのお話としても楽しめます。
常々思ってます。アルロンさん、天才やって。

いいなと思ったら応援しよう!

えむのマイトン@路地裏で遊ぼう
サポートいただきありがとうございます😊嬉しくて一生懐きます ฅ•ω•ฅニャー