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ショートショート『日本一の唐揚げ』

「日本一の唐揚げ屋」

なんの捻りもないシンプルな名前。
私の大切なお店の名前だ。

それは味に自信があるから。余計な言葉は要らない。食べてくれればわかる。

あぁ、こりゃ日本一だ。ってね。

小さい頃母が作ってくれた秘伝の味付け。
レシピは企業秘密。


最初は小さな小さなお店からスタートした。

ビルとビルの隙間みたいな間口1メートルのお店。
東京の片隅でオープンしたその店は口コミやSNSで話題となり一気に行列ができる人気店になった。

やはり母の味付けは最強だ!

自信を持った私は店を畳んでトラックに乗り換えた。

このトラックで日本中を回って母の味を広めるのだ。

そしてここに帰ってきた時、名実ともに「日本一の唐揚げ屋」になるのだ。

新たな野望を胸に私の挑戦が始まった。




日本全国を回りながら自慢の唐揚げを売る。

やはりどこに行ってもすぐに人気が出た。
ここでもわかった。

母の味付けは最強!

1週間ほどその場に留まっては次の場所へ移る。
少しずつ、着実にうちの店のファンは増えていった。

SNSでは今店がどこに出ているかが呟かれ、遠方からわざわざ買いに来てくれる人も出てきた。

そんなお客さんに丁寧に対応しながら、毎日一生懸命唐揚げを揚げた。

気付けば5年が経っていた。

世間では食のブームがコロコロ移り変わりゆく中でうちの唐揚げは売れ続けた。

そして遂に私はスタート地点に帰ってきた。




東京に戻ってきた私は相変わらずフードトラックで唐揚げを売りながら、店をオープンする準備を始めた。

名実ともに日本一の唐揚げ屋と胸を張って言える。私はやり遂げたのだ。

毎日トラックには行列ができた。
ある日の夕方1人のお客さんが来た。

品のある顔立ちだけど、質素な身なりをしているおばあちゃん。

「唐揚げ四ついただける?」


「はい!少々お待ちください!」


「随分賑わってるわね。これだけ行列ができてるからきっと美味しいのね」


「並んでいただきありがとうございます!お待たせしてすみません。当店自慢の日本一の唐揚げ、どうぞお召し上がりください!」


「ありがとうね。お天気もいいからそちらのテーブルでいただくわね。」


「承知しました。もう今日はこれでお店もおしまいなのでごゆっくりどうぞ。あったかいお茶もどうぞ!」


「あらあら、気がきくわね。ありがとうね。」



今日も一日がんばった私!
お店を片付ける準備をしながらおばあちゃんの方を見ると何故か泣いている。



「どうかされましたか?お口に合わなかったですか?」


おそるおそる声をかける私。


それでも静かに涙を流すおばあちゃん。


どうしたのか、と考えているとおばあちゃんが口を開いた。


「…あなたヤッチャンよね。」



!!?



「ごめんね、来るのが遅くなって。」





私には母親がいない。

いや正確には小さい頃母は私を置いてどこかにいってしまった。

そう、唐揚げのレシピを残して。

私が大好きだった母の唐揚げ。
これからも食べられるようにということだったのか。

その真意は分からなかったし、結局父は唐揚げなんて手の込んだものを作ってはくれなかった。

でも私はそのレシピを大切にして、今ここで唐揚げを作ることができている。


なんで私のこと置いていったの!?寂しかったんだよ!!

そうやって思い切り母の胸で泣きたかった。



でもほんとは母のことが恋しくて仕方なかった。


母に会いたくて仕方なかった。


だから母の味付けの唐揚げを揚げ続けていれば、いつか母が迎えにきてくれるんじゃないか。


そんなバカなことを考えて唐揚げ屋さんを始め日本を回ったのだった。



でもまさかほんとに!!


こんなことあるなんて。。



「ヤッチャン、ごめんね。おかあさん、こんなにおばあちゃんになってしまったけど、会えてうれしいよ。ほんとに上手に唐揚げ作れるようになったのね」




なんで今まで来てくれなかったのか。
どうして私を置いていったの。
そんな思い以上に母に会えたことの喜びが大きかった。


その日久しぶりに私は母と唐揚げを食べた。




いよいよ私の新たな店がオープンする。

新しくピカピカの看板にはでかでかと店の名前を書いた。


「日本一のお母さんの唐揚げ屋」



いらっしゃいませ!
母と私の新たな挑戦が始まる。





参加してます!

唐揚げ食べたい 29日目

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