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たけのこの里から聞こえるたけのこブルース
うちの地元は、たけのこの産地として有名だ。
昔『どっちの料理ショー』というテレビ番組に、地元のたけのこが出たことがある。『今日の特選素材』というかたちで紹介された地元のたけのこを観て、我が子がテレビに出たかのように、両親が誇らしげにしていたことを覚えている。
そんな、たけのこの里で育った、たけのこボーイの、たけのこ愛を聞いて欲しい。
たけのこブルース(ええ声で)
……いやいやいや、そうじゃなくって今日は真面目なエッセイだった、そうだった。
春先になると地元は、たけのこを湯掻く独特の香りで満たされる。なんせ実家から30分も歩けば竹林にたどり着く。「いっぱいもろたから」なんてお隣さんから湯掻いたたけのこのおすそ分けをいただくも、家でも既にたけのこを湯掻いてたもんだから、また別のご近所さんにおすそ分けする『たけのこリレー』が始まったりもする。
そんな実家の定番は、たけのこご飯と若竹煮だ。
ハヤシライスのおかずに、ししゃも。
おいなりさんの具材はツナマヨきゅうり。
と、独特の感性を発揮するおかんも、たけのこ様を前にすると大人しい主婦になるらしい。
たけのこご飯の具材も至ってシンプル。細かく切った人参に、刻んだおあげ、そして炊くとほろほろになる鶏のむね肉。たけのこのベストフレンドは昔から決まっているらしい。ただし、付け合せは真っ黄色のおこうこ(大根の漬物)。このあたりは、おかんの色が出ちゃってるかもしれない。
そして私が一番好きなのは若竹煮だ。
新鮮なたけのこは口の中に入れて歯に当たると、勝手に繊維がほぐれていく。周りに纏ったワカメのにゅるんとした食感と、ほのかな磯の香りが鼻に抜ける。今なら間違いなく日本酒と一緒にいただきたい。
家では面倒だからとあまり出てこなかったけど、たけのこの天ぷらも捨て難い。脇を固めるタラの芽、ふき、うど、オールスターすぎる!これに合うのは苦いビールだろうか。今まさに、ごくり、と何かが喉を通り過ぎて行った。
うちの子供たちはたけのこの美味しさをまだ知らない。この春実家に連れて帰って、たけのこブルースを聞かせてやろうかな。
(869字)
三條凛花さんの4月エッセイに応募します。
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