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忘れられない旅 『ウクライナの思い出』
「キミ、ちょっとウクライナに出張行くから一緒に来て」
ちょうど8年前、上司から告げられた出張命令。
当時のウクライナも既にロシアの侵攻を受けており情勢は不安定。
その時子供はまだ2歳と小さく、妻からは「行かないで」とはっきり言われた。
とは言え業務上どうしても必要な出張で、上司とも相談した結果行くしかないという結論に。
こうして不安でいっぱいの3泊4日ウクライナ旅が始まった。
ウクライナは美しかった
目的地である企業はキーウ(当時はキエフ)東部にあった。
結局最初の2日間はまるまる会社に缶詰状態で目的の業務をこなす。
3日目の午後にようやく仕事が終わる目途が立ち、相手先企業の社員さんに街を案内してもらうことになった。
それまでホテルと会社の往復しかしていなかった私は街の美しさに思わず息を呑んだ。
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真っ白な壁に淡いミントブルーの装飾。そして太陽の光を浴びて輝く金色の屋根。
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出張前の不安はどこへやら。
あまりの美しさに私は夢中でiPhoneのシャッターボタンを押し続けた。
美しい教会が並ぶ街を少し抜けて郊外に出ると、戦車や軍用車が無造作に展示されており、ここがウクライナであることを思い知らされる。
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また、地下100メートル超えという、世界で最も深い地下鉄の駅も案内される。
噂では旧ソ連がシェルターとして利用するため地下鉄は全て地下深〜くにあると言う。
日本の倍速で進むエレベーターにも記念に乗ってみたが、眩暈がするほど長い。
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食事はロシア料理のお店に連れて行ってもらうことに。入口ではお馴染みのアレがお出迎えしてくれた。
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3日目にしてこの旅初めてのボルシチに舌鼓を打つ。この日は他にも豚の血を固めたソーセージなど日本では馴染みのない料理もいただいた。
馴染みのないと言えばクワスという麦を発酵させた飲み物もウクライナではポピュラーな飲み物だ。甘酸っぱい微炭酸飲料で素朴な味がした。
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食後改めて街の景色を楽しむ。
このまま帰りたくない、と思うくらい素敵な街並みだった。
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ウクライナ情勢はやはり不安定だった
たった半日の観光だったが、今もあの美しい景色は脳裏に焼き付いている。
その後日本に帰国して知ったのだが、私たちがキーウを去った翌日に爆破テロ事件があったらしい。
そのニュースを聞いて肝を冷やしたものだが、ご存知の通りそれからしばらくして本格的なロシアとの戦争が始まってしまった。
当時良くしてくれた企業の人々とは一切連絡が取れなくなった。
相当心配で祈るしかなかったが、1年ほどしてようやくみんな無事であるというメールをもらえた時は心底ほっとした。
戦禍は普通の街中に及び、子供達が笑顔で遊んでいただろうこんな公園も、もしかしたら今はないのかもしれない。
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「行く前は渋ってたけど、行ってみたらめっちゃ良かったよ、ウクライナ!」と帰国後は家族や友達にオススメしまくったウクライナ。
とても美しい国だった。
私にとってはたった数日の思い出だけど、ニュースでキーウが爆撃され破壊されている映像を見てとても心を痛めた。
現地で出会った様々な人の顔が浮かんだ。
みんな笑顔が素敵で初対面の日本人にもとても優しかった。
彼らが今も苦しんでいると思うと尚更心が痛む。
日本ではもはやニュースに取り上げられることもほとんどないが、今も戦争は続いている。
今日は奇しくも8月6日。
こんな日くらいは静かに目を閉じて平和を祈りたい。
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