「ファゴットと私」
「ファゴット」これは楽器名である。
あまりポピュラーではなく、聴き馴染みのない名前かもしれないが、
オーケストラには欠かせない木管楽器の一つだ。
実はCMソングやアニメーションでよく使われている楽器なのだが
主張する音色ではないため、気づかれにくい(苦笑)
いまでも大好きなこの楽器。
就職してからすでに20年以上演奏はしていないが、いまも大事にしている私の宝物である。
ファゴットとの出会い
私がこの楽器と出会ったのは、高校一年生の時。
吹奏楽部に入った時のことである。
中学から吹奏楽部に所属していたので、当時吹いていた「ユーフォニアム」という金管楽器を続けるつもりでいた。
ところがその高校、地元一番のレベルを誇る学校だったため、
楽器はどんなに長く経験していても、未経験者と同じ土台でオーディションを受けるシステムになっていた。
ユーフォニアムの練習室に行き、当然その楽器を希望するつもりで
練習に臨んだのだが、ライバルたちの技術力の高さに圧倒され、名も無い吹奏楽部あがりの私は
完全に気後れして、
戦わず早々に諦めてしまった。
他の楽器にしようと、トロンボーンにもいってみたが、さらにライバルは多い。
途方に暮れていたところに
ひとりの友人が有力な情報を話してくれた。
誰も候補者のいない楽器があるという。
それが「ダブルリード」と呼ばれる、
二枚のリードを重ね合わせたものを歌口として
息を吹き入れて音を出す、特殊な木管楽器だった。
そのダブルリードの「オーボエ」と「ファゴット」に
空きがあるというのだ。
どうやら前任の先輩方が勉強に専念するため、やめてしまったらしい。
友人と私は、二人でダブルリードをやろう!と決意することにした。
友人は「フルート」から「オーボエ」
私は「ユーフォニアム」から「ファゴット」である。
実は、私が選んだこのふたつの楽器には共通点がある。
楽譜がヘ音記号で書かれていて、
中低音楽器で役割も似ている。
この出会いは偶然かしら?
オーディション会場で、希望楽器を申し出た時
その場にいた先輩方が「おお〜!」という感嘆の声をあげたのを
いまでも鮮明に覚えている。
そのくらい嬉しかった。
ちょっと照れながらもこれでファゴットが堂々と吹ける!
ライバルもいない!
私の「ファゴット・ライフ」が始まった。
いろんなツテも出来たし、奏者が少なかったこともあり、社会人の団体に助っ人参加もして、
いろんな演奏会に出させてもらった。
他の部員にはない経験がたくさん出来た。
努力したし、本当に楽しかった。
でも吹奏楽では、ファゴットという存在は決して主役ではない。
ほとんど「ユーフォニアム」「チューバ」「テナーサックス」「バリトンサックス」「バスクラリネット」「コントラバス」と一緒。
いわゆる、<縁の下の力持ちパート>なのである。
もちろん、ソロや目立つ場面もあったりするが、ほんの少しの曲だけ。
いや、もちろん<縁の下の力持ち>が嫌な訳ではない。
どちらかというと、メロディを奏でてキラキラしている楽器よりも
裏で動いたり、支えたりする低音楽器の方が好きだからだ。
でも、やっぱりオーケストラに入りたい!
心は決まった!
オーケストラに入部する
大学に入学して、どんなサークルの勧誘にも目もくれず
まっすぐにツテも何もない「管弦楽団」いわゆるオーケストラの門をたたいた。
「ファゴットがやりたいのですが…」
そう申し出た私をみて、びっくりしていた。
かなり珍しかったらしい。
驚くことに先輩方はみんな男性。
当時は女性のファゴット経験者など皆無に近かったのだ。
しかも経験者がもともと少ないこの楽器に
私ともう一人経験者の男性の新入部員が加わり、
合計4人になった。
これはとても珍しいことだったらしい。
練習も楽しかったが、4年生の先輩を筆頭にすぐにおさぼりして
カフェでお茶をしているときに、副部長に見つかり、全員で叱られたことまでが懐かしい。(笑)
ファゴットが4本必要な名曲
ベルリオーズの『幻想交響曲』は、
4人揃ったことで演奏が実現した大曲で、
大学のオーケストラ大会にまで出場することが出来た
私には忘れられない思い出の曲となった。
初めて合奏に出たときは、フォゴット4人の圧巻な姿に
みんなにすごいすごい!
と言われ、照れくさかったのを覚えている。
指揮の先生にまで、素晴らしい✨とお褒めいただいた。
「なぜ音大に行かなかったのですか?」と
私が言われたときは、びっくりしてキョトンとしてしまったくらいだ(笑)
え、そんな実力ないのに…と心の中で呟いたのだが、
「好きこそものの上手なれ」
高校での努力や経験がそう思わせたのかもしれない、と感じた。
半年が経って、いままで楽器を借りて演奏していたのだが、
自分の楽器を持ちたい!
と思うようになった。
先輩に楽器店を紹介してもらい、何度も通って、
とうとう、中古で45万円する自分の楽器をローンで購入することになった。
ファゴットという楽器は高額なのだ。どんなに安くてもそのくらいする。
人生初の大きな買い物。
もちろん人生初のローンである(笑)
毎月の家庭教師とお寿司屋さんのバイトでローンを返していった。
苦労して手にした分、自分の楽器が愛おしくてならなかった。
管弦楽団の中で4年間、ファゴット奏者として木管楽器の低音部を支えた。
またオーケストラ全体の低音パートの一楽器として、華も添えた。
音楽は私の人生の支えになっている。
そう気づいた。
だから、どんな形でもいいから
音楽と関わっていたいんだな、と。
いまでも時折夢に見る。
もう一度ファゴットが演奏出来たらなぁ、と。
友人たちは楽器を続けている人も多い。
そんな便りが届くと、懐かしくも羨ましい気持ちが優先する。
楽器も棚の上に放ったらかしにされて
さみしいだろうな。
メンテナンスもオーバーホールもしてあげないと。
演奏の再開を実現させるには、お金も時間もかかりそう(苦笑)
でももう一度、ファゴットに息を吹き込む日がおとずれたら
どんなに素敵なことだろう♪
いつか来るかもしれない、その時を信じて✨
〜自分らしく生きるためのルーツをたどる 番外編〜
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