線維筋痛症に対する標準治療と新規治療-医療従事者向け解説-
線維筋痛症や慢性疲労症候群やリウマチ、膠原病などご専門にされている 菱山美絵先生の講座を医療従事者向けに編集いたしました。
検査で説明がつかない
痛みや疲労を訴える患者と出逢ったら
「慢性疼痛や慢性疲労は治らない、我慢するしかない」と医師があきらめてしまうと、患者は不安感を抱き、痛みが悪化したり、医療不信に陥りやすいです。追いつめられている患者さんも多いため、全部を一度に治すのではなく、治せるところから治していく、と伴走する姿勢が大事です。社会的背景にDVを受けていることもあるため、外来では、家族との関係性も確認する必要があります。
慢性疼痛と慢性疲労のマインドセット🧠
自分の不安やストレスとうまく付き合っていく。
自分に合う治療法を見つけ、効かないものは断捨離していく。ただし、タイミングなどで効かない場合もあるため、段階によってまた、試してみる選択肢も残しておく。
自分を理解してマインドフルネスを行っていく。
脳とからだ、両輪のアプローチを
脳神経の興奮、筋緊張亢進、筋付着部炎に対して集学的治療を行うと同時に、教育、有酸素運動、瞑想、トリガーポイントや鍼灸による物理的な疼痛緩和を行うことで、筋緊張症状と不眠を改善させていけます。特に抗うつ剤を使用する際は、怖がる患者さんに理解を深める説明を心がけましょう。
最近では、VRなどで「歩いている自分」「動いている自分」を視覚情報として脳に送るミラーセラピーの研究も始まっています。
第3の痛み~痛覚変調性疼痛~
侵害受容性疼痛や、神経障害性疼痛の痛みが慢性化してくると第3の痛みが出現します。原因となった怪我などが治っても脳が痛みの信号を出し続けて、痛みだけが残ったり、ほかの部位へも痛みや神経痛が広がり、複合的なものになります。
患者さんが使用経験がない場合は、まず手足の冷えやアレルギーがある者に対してはノイロトロピンの点滴を外来で行い、効果を感じるようであれば1日4錠や頓服として処方を提案しています。リリカは徐々に増やし、漸減は慎重に。うつ症状が強ければサインバルタはよい適応となります。
線維筋痛症
①筋緊張亢進型
②筋付着部炎型
③うつ型
機能性身体症候群(functional somatic syndrome : FSS)の一つです。明らかな器質的な原因によって説明できない身体的訴えがあり、それを苦痛と感じて日常生活に支障をきたします。便秘や下痢、胸焼けや膨満感を訴える方でしたら、外科医TEE先生の解説をご参考ください。
線維筋痛症の診断ポイント
以前より診断しやすくなっています。
①圧痛点がなくても、身体の4/5以上が痛いこと
②3か月以上続く慢性疼痛があること
③ほかの疾患が合併していてもOK
若年の場合は全身の痛みがなくてもOK
線維筋痛症における痛みの伝達経路
痛みの恐怖モデル
線維筋痛症の原因は徐々にわかってきている
原因不明、と言われることが多いですが、研究が進み、発生機序が解明されつつあります。
仮説1 脳とからだの疼痛制御機構の異常
仮説2 中枢神経の大脳基底核疼痛制御機構の異常
仮説3 脳内ミクログリア活性化症候群
仮説4 偏桃体の過活動
画像診断は不可能
2023年現在、線維筋痛症は、脳細胞の萎縮などの器質的異常ではないと考えられています。一般的なMRIやPET、脳波等の精密検査をしても、線維筋痛症単独で異常所見は認められません。逆に画像の異常があったとしても症状と一致しません。つまり、脳細胞の大小ではなく、神経ネットワークがうまく機能しているかどうかが重要であり、これは脳細胞を生検しないかぎり断定は出来ないのです。
治療法 なによりも「睡眠」が大事
①抗けいれん薬
リリカ、ガバペン、レグナイト、タリージェなど
神経の興奮を抑える(アクセルを鎮める)
②抗うつ薬
サインバルタ、トリプタノール、トレドミン
痛みを抑えるブレーキ系神経の賦活 (セロトニンなどを増やす)
問題点:眠くなる、頭が働かくなる、日常の活動に支障をきたす
対策:就寝前に服用すると睡眠の質も改善
③オピオイド系
トラマドール、トラムセット、ノルスバンテープ
服用管理をきちんとする事が必要
長期服用は痛みを強くさせるリスクもある
上記①②③は、血中濃度が安定しないことには効果が得られないので、飲み忘れや消耗で内服が遅れても効果が出ない。
・アセトアミノフェン
慢性化、難治化した線維筋痛症の場合、通常の痛み止めでも効果があるときがあります。
→通常の鎮痛剤が効く慢性疼痛患者さんを診たら、長期の線維筋痛症を疑ってもいい
一方で、カロナール4000mg/日を長期処方するならサインバルタなどを処方した方が良いでしょう。
・漢方薬
長期使用で肝機能障害や費用もかかってくることを忘れないようにしましょう。2週間内服しても効果がなければ粘らず変更を検討していきます。
・鍼灸、徒手療法、理学療法
薬だけで良くならない患者は皮膚や筋肉の硬さをチェック。患者の痛みが起きている部分に対し必要な物理的刺激や筋肉を弛緩させる施術してくださります。鍼灸院に同意書を書けば、保険診療となり、患者の負担が減る為、積極的に紹介をお願いします。
*トリガーポイント注射
神経の誤作動で痛みを感じるシグナルが出し続けられると、血行が悪くなり筋肉が硬結となり、痛みを体感します。痛む部分に薬剤を注射して、血流を良くすることで数時間だけでも痛みがない状態を脳に覚えさせることは重要です。筋注ではなく、筋肉と骨の付着部へのアプローチが効果的です。
菱山×みおしん手技動画
*古くて、新しい治療:
ガイドラインでは推奨度低いが重宝しているもの
眠くなるなどの副作用が少ない
痛みを抑える力を付ける
ノイロトロピン(錠剤、注射)
・グルタチオン(服用、注射)
抗酸化作用の高い神経を構成するトリペプチド
メラニン色素沈着をブロック
免疫調整力があり、アレルギーにも効く
美容目的で売れすぎて在庫が厳しそう
市販のグルタチオンは割高なので勧めない
ノイロトロピン+グルタチオン
週に一回は保険適応可能
ノイロ2A、グルタチオン〇A使う場合は自費診療
「美容」目的は高額なことが多い、「二日酔い点滴」は穴場かも
・プラセンタ( サプリメント、注射):
45歳以上は婦人科で保険適応できる
点滴よりトリガーのほうがいいかも?
筋肉内注射より筋肉と筋肉の間をはがすように
自律神経とホルモンバランスを整える
抗酸化、解毒、新陳代謝アップ
※献血はできなくなります
・エルカルチン( サプリメント、薬、注射):
慢性疲労、ブレインフォグ
細胞内のミトコンドリアの働きを助ける。
ATPの働きが良くなりエネルギー生産が増える。
免疫の適正化
2022年1月承認!!最新磁界医療機器 エイト
下降性疼痛抑制:セロトニン増加とβエンドルフィンによる抑制系の不可化。
グリア細胞の一種、アストロサイトの神経栄養因子NGFの発現調整。BDNFの優位な発現増加。これらによって、複合的な痛みに対しても効果がある。
非常に微弱な磁気を患部に当てることで、痛みを鎮める最新機器。副作用や違和感なく使え、二週間ぐらい継続すると効果何で始めます。軽量小型で持ち運びに便利。医院でレンタルできます。舌痛や頭頚部の痛みには効果が出づらい印象ですが、月経痛には効果がありそうです。
※ rTMS 推奨できる段階ではない
実験段階なので、うつ症状以外には積極的には推奨していません。現段階では、ガバペンチンを使った方がよいでしょう。うつ病に適応あり、双極性障害、ADHD,アスペルガーには根拠がありません。少なくとも、精神科の専門医がいるところで充分な説明を理解してからがよいでしょう。商業ベースで展開しているところが増えてきているので注意が必要です。
心理療法 ー山王病院 村上正人
カウンセリング、ブリーフセラピー、交流分析、認知行動療法、自律訓練法など
自分のいたみはどこから?自分自身の痛みと向きあうのは大変だが後回しにするとこじれる。できるだけお近くの臨床心理士や精神科医、または精神科医youtuber益田悠介医師や樺沢紫苑医師の情報は10分動画でわかりやすいため推奨できる。
熱いご講演をしてくださった菱山先生の初診はなかなか取れない状況です。紹介状を書いてもらえると検討しやすいとのこと。通院されている患者へのオンライン診療では、エルカルチン(薬品)、ノイロトロピン錠剤やタチオン処方、エイトのレンタルなどには対応できますが、抗うつ薬、抗てんかん薬は遠隔処方は日本ではできません。
線維筋痛症 PS9 IKUKO note は寝たきりの患者さんにとても参考になると思いますのでフォローお願いいたします。
次回ペインカルテ講座は 3/29 21:00-予定です🐶