こうして繋がっていきました(3)
「家族脱退宣言」した後はすっきりしたと同時に、不安定な日々だった。
エネルギーを吸い取られていた(親族を含む)家族を外科手術でごっそり切り取った結果、自分のエネルギーの中に大きな余白ができて、スキップする余裕が生まれたよね、うん。
当時、私は震災後に引っ越した海の近くの町にいたため、行きたい時にすぐ海に行けてうれしい~!どこを見ても綺麗で楽しい~!ローカルなカフェが居心地いい~!と、猫と共に海辺で暮らす自由を満喫し、仕事の合間に友達とライブに行きまくり。弾けてましたわ。
ところが、余白が埋まるのは意外に早く……。
その町は人口が少ないがゆえに世間は狭く、旧住民と新住民のあつれきもあって、風通しがよい場所ではなかった。
それなのに、ノーガードで愛想よくしていたら、いろんな知り合いができてしまい、全然知らない人の誕生日会に出席を求められたり、庭で会うたびにご近所さんの噂話(主に悪口)を楽しげに喋る隣人がいたり、不倫のお誘いで話しかけてくる地元オジが多かったり(全員、社会的地位が高くてすぐ名刺を出すが文春の知人の話をすると、慌てて去る。文春最強虫除け説!)、「市議会議員選に出ない?」と勧誘されるなど、気づけば「ああ、面倒くさい!息苦しいぃぃぃぃぃい!」と叫びたい事態に。選挙なら、ずっとここに住んでるあなたが出なさいよ。
息苦しいところをやっと抜けたと思ったら、また息苦しいかよ!
この息苦しさはよく知っている。
気やすく本音を言えない感じ。それぞれの思惑の網目に引っかからないように、うまく立ち回らないといけない感じ。
私の両親は、時期は違えど、それぞれが個別に「離婚したい」と私に愚痴をこぼしに来たり、配偶者である相手に言いたいことを娘に話して、私からパートナーに伝わることを期待する傾向があり、夫婦の仲裁役を娘に託しているような部分が昔からあった。
これは娘としては大迷惑で、双方が私を味方につけようと、個別に情報を吹き込んでくるのが超面倒くさい。しかし、それなりに心は乱されて、気持ちが落ちる。
結局、体裁と世間体を気にする2人がいつまでも解散しないので、私が一人で脱退してしまったが、町の人間関係が密になるにつれて、両親の間で感じていた息苦しさと同じものが浮いてきたのだ。
なーんかさぁ、安息の地とかってあるのかな?
ここ、世間一般の評価ではかなりよい街と言われてるんだけど、それでもこんなでしょう?
ここが自分の場所だと思えるところなんてあるのかな?
人間世界はどこへ行っても大して変わらないなら、私、別にこの地上にいたいと思わないな。帰れるものなら、早く帰りたい。
と、心底いろんなことにうんざりしたある夜、スポーツジムから帰る車の中で、誰に聞かせるでもなく呟いていた。私は昔から一人きりの時、見えない誰かに向かって思いを語るクセがある。
そして、車が心霊スポットと呼ばれているトンネルに差し掛かったので、気晴らしにFMをつけると、
「You are not alone~I am here with you~♪ ガガガガガガ……(電波が遮られる音)You are not alone~I am here with you~♪ ガガガ……ガガガガガガ………ガガガガ…………………You are not alone~I am here with you~♪」
と、高音の優しい歌声が聞こえてきた。
トンネルや山壁で絶妙に電波が遮られて「You are not alone~I am here with you~」のところだけハッキリ聴こえるのだけど、それ以外の部分は全く聞き取れない。
耳にした瞬間、メッセージだと分かった。
こうした形でメッセージを受け取ったのは久しぶりだったが、ストレートな心強い言葉に涙があふれ、タイミングを逃さない『上の人たち』に感謝した。
『上の人』はこのように寸分たがわぬ完璧なタイミングで、疑いようのないメッセージを送ってくる。耳にした瞬間、目にした瞬間、パッと自分の内側に光が灯るような、視界が明るくなるようなメッセージ。
「それは幻想じゃないんですか?どうやったら、それが本物だと分かるんですか?」と問われたら「いや、分かるんですよ。あなたも受け取ったら分かりますよ」としか言えないが、一瞬で理屈抜きに分かる――そういうものだ。
うん、『上の人』が応えてくれた。
これは幽霊がからかっているのではない。
後から知ったことだが、これはマイケル・ジャクソンの天使的歌唱による『You are not alone』という歌だった。実はこの曲、失恋した主人公の耳元で「(目に見えない)なにかがささやいたんだ」と歌っている内容。
『上の人たち』、選曲がドンピシャすぎでしょ。
私がFMをつけたタイミングは、おそらく1番の途中だったけど、車が障害物の少ない町の中心部に近づいて2番が流れ始めても、やっぱり「You are not alone~I am here with you~」以外の部分は、引き続き音声不明瞭で笑ってしまった。電波障害起きすぎなんですけどー。
不思議なことだが『上の人たち』はこういうことができる。つまり、本当に伝えたいメッセージがある場合は、地上のあれこれを物理的に操作して伝えてくれたりする。
特にめっちゃ絶望してたりすると「おーい、大丈夫か?」って感じで、何らかのサインを送ってくれるパターンが多いようだ。
この晩、久しぶりにゆっくり夜空を見上げた。
子供の頃に感じていたとおり、空の向こうに、そして実は私の周囲にも、目には見えない仲間がたくさんいるのかもしれない。
人間をやっていて、正直、この人間世界にはうんざりすることも多い。
ほんとにさぁ、もうやってらんねーなっていうか、いつまでこんなことやるのかなーって思いません?
でも、どうやら私たちには人間よりも、愛に満ちていて、クレバーで、ユーモアのセンスがある仲間がいるらしい。だったら、彼らともっと仲良くして、彼らを頼る方がよくない?
そう思い始めたら、人生にまたまたいろんなことが起きて、ますますメッセージが来るようになった。