藤枝・侘助 "自分がいいと信じるもの"
静岡市内から車で25分。
侘助は電車なら静岡駅から東海道線を西へ4駅の、藤枝駅から徒歩五分。
かれこれ50年近くギャラリーと喫茶をしているお店だ。ここはd&dでも紹介される染めの山内武志や洋服を原料から販売までを一貫して行うマキテキスタイルの真木千秋などと関係があったり、最近では県内外の手仕事作家のイベントなどを行ったりしているという。
そんな侘助を私が知ったのも、浜松は山内武志の民藝”ぬいや”のSNSからであった。
いらっしゃいー。
ギャラリー喫茶慣れしていない私を柔らかな挨拶が迎える。
ーーー
どうぞー。あら、初めて?
はい
そうなの。
喫茶があると伺ったのですが、、
喫茶は奥ね。手前がギャラリー。つい先日ガラス工芸の展示が終ったから今は常設のものが並んでいるわ。
ーーー
お店の入り口にかかる山内さんの暖簾をくぐり、土間と畳の日本家屋らしい間取りのお部屋に上がらせていただいた。
棚には素朴な民芸調のお皿やいかにも作家ものな器に、素材からこだわりの込められていそうな服が並ぶ。それらは安ければ数千円、高ければ幾十万の品々であった。でもどこか嫌味のない、暮らしにすっとなじむであろう品々が整然と陳列されている。
部屋の調度品もまた間取りと同じく、和風な電傘の照明や細工の入ったガラス戸などどれも人の手のぬくもりを感じる雑貨や家具が穏やかな空間を形作る。
ーーー
そっちはトイレね。(笑)
あぁ、すいません(照)
ーーー
本当にトイレとは思えないような、型染の暖簾がいい目隠しで、周りの民藝関連書籍が空間を言語的にも盛り上げる。
ーーー
どうぞ、どこにでも座って。
ここ座ってもいいですか。
もちろんよ。
ーーー
民藝の書籍がある奥の座敷でもよかったのだが、不思議とカウンターに腰かけたくなった。
ーーー
何にする?うちはこんな感じ。
じゃあ、コーヒーゼリーで。
はい。
どこから来たの?
静岡市内です。
そうなの。
実はずっとここに来てみたくて、やっと今日きました。
あら、ありがとう。
ちかくのアートスケープさんにここをおすすめされたり、入口の暖簾の山内さんのSNSでも気になっていたんです。
アートスケープさんね。あそこはこの前、洋服のオーダーに行ったわ。
行かれたんですね。僕は行きそびれました…。
あら、袖とか首元とか調整しながら生地を選んだりして楽しかったわよ。
そうだったんですね。あそこは静岡の繊維産業を盛り上げようとしているし、その土地の洋服を着るってなんかいいですよね。
そうね、店主も若いのにとても洋服に詳しいから話していていろんなことを教えてもらえるし。
好いお店ですよね。
そうね。
山内さんの方は先日も展示をしたわ。
そうなんですね。以前違う県に住んでいたんですが、その時から山内さんの師匠の芹沢銈介さんに興味があって静岡に来ていたんです。
芹澤さんね。今度の展覧で芹沢さんの沖縄滞在時のスケッチとかも展示するわよ。
そうなんですか!また来ます。
ーーー
ここに至る経緯を話し、藤枝のこと、アートスケープのこと。
さらに自分の民藝に興味をいだいたきっかけなどを話すうちに徐々に店主の熱量が高まる。
ーーー
いいわね。若い子も最近興味を持ってくれるようになっていて嬉しい。私も最近、長野のハタチくらいの竹籠職人と話をしたり、いつか自分で育てた野菜を提供するお店をやりたい人と話たり。そういう人たちの話を聞いていると、これからは私応援する側になっていこうって最近思うの。
はたちですか。すごいですね。僕はまだどう関われるか、悩んでます。でも芹沢さんも染めを始めたのは30歳からですし、まだ悩んでいてもいいのかなって思ってます。
そうね。はじめるのは、50歳からだって、60歳からだって遅くないのよ。いろんなものをみたらいいわ。
そうですよね。そう言ってもらえると嬉しいです。民藝に興味を持つきっかけこそ、原田マハさんの「リーチ先生」という小説だったんですが、次第に自分が行動するにつれ、いろんなものが民藝の世界とつながっていると実感することが増えて、この方向に進むべきなのかもなって自然と思うようになりました。
いいわね。なにか気になる軸が見つかると、いろいろな世界が見えてくるわよね。
本当にそうです。常にとはなかなかいきませんが、ふとした時に体が自然と民藝の方へ動く感覚があります。今の仕事も、ただ商品を売るのではなく、自分なりにわずかながらも民藝的な意味や近しい考え方の持った商品を販売しているつもりです。
あなたのお店は確かに、昔からいいわよ。安くて、そういうものを買おうと思ったらやはりそうだものね。民藝だけではなく、そういう感じのいいものへの入り口として、十分だと思うわよ。
ありがとうございます。最近だと、お店にインディゴで染めた服の取り扱いを増やしました。
へぇ~!あなたのお店、昔はインディゴのもの多かったけど、今は減っちゃったからまたそう言いうのを買いたい人いっぱいいると思うわ。私も今度いってみるわね。
えへへ、ありがとうございます。不思議と芹沢さんや山内さんのような染色を愛する土壌がある静岡にフィットすると思って考えをあたためていたんです。
そうなのね~!結構人気なんじゃない?
はい。おかげさまで多くの方に手にしていただいてます。うちの会社のモノづくりの考え方や価値観的なことを販売にプラスで伝えられると思ったんです。
とてもいいわね~。私もここは器の持つ可能性とか、たくさんではなくいくつかの気に入ったものを大切に使う姿勢とか、あるものを工夫して暮らすこととかを伝えたくてお店をしているの。ただモノを売っている人に思われてしまいがちだけれどね。あらいけない。普段こんなに話すことあまりないのだけれど、今日はなんだか話しちゃう。(笑)
ーーー
気が付けば、二時間近くが経っていた。コーヒーゼリーはよくあるガラスの器ではなく、作家ものの器に入って提供された。それをたまにつまみながら、同時に温かいおいしいお茶をいただく。そして、話はクライマックスを迎える。
ーーー
今日はすごく自分の中で共鳴する瞬間が多かったです。
共鳴ね。
僕がアートスケープさんや侘助さんで共鳴するように、いいなと思ってもらえるようなものを僕も人々に知ってもらえるように頑張ろうって思いました。
そうね。私も器にはじめ、どれも自分がいいと信じるものをこれまでお店を通して伝えてきたつもりよ。それはそのものが作られた土地や作家さんのこととかだけじゃなくて、片口をそのものとしてだけではなくて、コーヒーゼリーの器にだって、そうめんのお椀にだって使ったっていいということも含めて。
モノの背景だけじゃなくて、やはり可能性まで。
そう。なにもそれにモノの使い方を限定しなくたっていい。そうすれば、たくさんのモノを持たなくても、気に入ったいくつかのものを使うだけで暮らしはよくなるし、おいしいご飯を作れなくても器が助けてくれるのよ。
そうですよね…。僕も以前買ったやちむんの気に入ったお皿を何にでも使ってますけど、使うだけで楽しくなるし、飽きないし、下手な料理でもいっちょ前に見せてくれて助かってます。(笑)
そうでしょ。いいものって私たちは評論家ではないし、専門的に学んだわけではないとしても、ただ自分がいいと信じるものであればそれで十分だし、そういうものは自分だけじゃなくて、誰かのそういうものはそれに関わるいろんな人の暮らしをいいものにできるのよ。
好いですね。僕もいつかそういうお店をしたいなって思いました。いつになるかわかりませんが、またそういう時が来たらその波に乗ってみようと思います。
そうね。急がなくたっていい。急ぐとうまく話せないし、不思議といろんなことがかみ合わなくなるの。始めるのに遅い事なんてないし、いつかきっとそうなる時は自然とくるわ。自分のいいと信じる気持ちを大切にね。
はい。なんかすごくはげまされました…。長々とすみません。
とんでもないわ。私も本当に気持ちが熱くなったし、今日初めて会ったのにすごくたくさんいろんなことを話してしまったわ。ごめんなさいね。またよかったら芹沢さんの絵も今度出すから遊びに来てね。私も静岡のお店のインディゴ見に行くわ。楽しみ。
おじゃましました。またきます。
はーい。またねー
ーーー
そうして、自分は静岡に来るべきだったと思わせる時は終わりを告げた。
今度は福島にいく。
同世代の地域の誇りをよみがえらせようとしている農家を追って。
福島のことを調べていると、あるワイナリーのホームページにこんなことが書いてあった。
「産業はその土地の風景を作る。」
まさにその通りと思う。土地の力を人が借り、モノを創り、人びとの生活や営みを創り出す。その結果が風景となる。
福島の人たちがいいと信じるものを、風景を全身で感じに行く。
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