”まとめ上手”な大河ドラマ『どうする家康』

 今回は2023年のまつじゅん主演の大河ドラマ『どうする家康』にちょっとだけ触れたい。正直に言うと今作舐めていた。どことなく大河ドラマっぽくない。大河ドラマっぽいというと、渋めの名優が主役を務め、合戦シーンなどを通して戦国時代の様相を伝えるものだというイメージが私にはある。が、しかし、正直初回こそちょっとだけ見たけどそういう感じはしなかった。これは持論でしかないが大河ドラマには当たり年とハズレ年が交互に来ると思っていて、今年はそのうちのハズレ年だと思っていた。昨年が喜劇家三谷幸喜だったし、大泉洋だったので断片的にみるだけでもなかなか面白い大河に仕上がっていただけに余計にそう思っていた。しかし、そんな今年の大河ドラマはどうやらハズレ年ではなさそうだ。

 なぜそう思うのか。それが今回のタイトルにある”まとめ上手”である。正直確かに演出としては従来の大河ドラマの雰囲気は薄く、どちらかと言うと安っぽい演技のように見える。素人的ともいえるかもしれない。しかし、じゃあ今年の大河制作陣は何を意図してこの作品を世に出しているのだろうかと悩んだ。そこで見えてきたのが、一つはかつての出来事をわかりやすく伝えるということだ。歴史的な事象は中々伝わらない。しかし、今回の大河ドラマはかくかくしかじかこういう背景があって、だからこういう事件につながったのだということが非常にわかりやすく構成されている。
 例えば今回の2月19日では今川義元亡き後に今川からの独立と三河の国という家族の長であると示そうと名前を元康から家康に変えたのち、名前とは裏腹にまとまらない領内で反乱が起こるまでを描いている。桶狭間以降三河の国の当主になり、いっちょ前の名前を掲げたものの三河の国の内実は散々バラバラ。それらをまとめようと戦をするも、まとめるために戦が絶えず松平家の経済は貧しさを増していた。そこで新たに財源を求めようとそれまで納税をしなかった一向宗(一つの宗派。今でも宗教団体は納税が不要)に一方的に納税を求めるも、当然一向宗とそれに従ずる人々の不満が爆発し、三河の国一向一揆へとつながる。この話の中で興味深いのが、一向宗には一向宗の論理があり、松平家には松平家の論理があり、それぞれが全く食い違っている点だ。農民の悲しみに僧侶が寄り添い、また同時に自らの過ちや苦しみに寄り添ってくれる僧侶へ農民が信仰を集める。そこでは松平家の統治とは別のギブ&テイクの関係を持つ一つの国のようなものが存在しており、一向宗の中にそうすることで納税や外圧から免れ、自らとそれを支える人々との内輪で豊かになろうとするさま(事実、豊かな生活)が見て取れる。
 一方家康は自分がその国のトップと示したいから、領内での自分勝手的な行動は許さず、自分の元でほかの宗派と同様に自分に納税することを強行的に求める。言うまでもないがその納税はひいては農民の暮らしのためとなることが前提とされている。しかし、実際は豊かにならない松平政権下の三河の人々はこれに反発。一向宗側はうまく自治が機能しており、また直接的に人々へメリットを示せている。一方政権側があたかもうまく機能していないように見える(実際にどれだけ機能しているかはわからない)から難しい。これは現代とも地続きな、為政者とそうでない人との相互不理解のさまを理解させる。
 こうした状態への対処としては、例えば田中角栄内閣が地方に雇用を生み出そう、いっぱい税金投資をして地方へアピールをした列島改造がある。背景は戦後都市部へと人とカネが集まりすぎて地方が貧しくなったことで、地方の人の納税の意味が見えなくなりつつあった点にある。要は都会だけではない、”わかりやすい”地方へのメリットの享受だ。ほら、納税してくれるから、君たちにも還元ができているようということをわかりやすく示すためのパフォーマンス。今回の大河ならほら私たちの方が直接的にみんなの役に立ってますよと言う一向宗側のアピールだ。もちろん田中角栄の諸政策にはほかの意図もあるが、中でも納税することのメリットを提示するという点は欠かせない。もっとわかりやすいのは最近の10万円給付だろうか。国はコロナ禍で苦しむ国民に何もしてくれない。そうさせないためのあからさまな国からのサービス(メリット)の提供だ。失敗したので言えば阿部のマスクだろうか。国民の需要に合わない供給がなされて残念な形に終わった政策である。(ちょっとこの辺り現代の制作が直接的になっている点は別の話になるので保留とする)
 話を戻すが、とにかく今作の大河はそんな感じで出来事の要点をわかりやすく伝えるためにうまく歴史をまとめている。そしてそのまとめ方が、今の現代史にもつながるものとなっている。さらにその後の展開が想像しやすく、次も見たいと思える作品作りになっているなと感じる。大河ドラマに限らず番組の視聴率の低下やそもそものNHKの存在意義が問われる中で、これまでとは違う層(いうなれば”みんなへの大河ドラマ?”)に届けようとするNHK側の姿勢はもちろん感じ取れる。今回もまたなんとかして大河ドラマの意義を残しつつ、現代の人にも次も見たいと思ってもらえて、かつ歴史に学ぶことの大切さを残していこうと努める製作者側の様子が感じられる。これはまさに歴史を学ぶ一つの意味であり、先人が生きたことへのリスペクトを示すという意味でもあるが、過去と同じ過ちを繰り返さないことに役立つのではないかと思う。例年に比べてより簡潔でわかりやすいようにも感じる今作は、歴史の大筋の周りで起きたアレコレを理解し、その時代を知ることにも役立つだろう。ただ一つ考えられるのは、予備知識なしだと比較的淡々と進むので面白みに欠けるところがあるかもしれないと感じる。


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