マシュマロ課題 チャレンジ課題10(公開14作品目)

『赤いスカーフ』

雪が降って来る。
この辺りでは珍しい。幸は天に手を伸ばして、落ちる前の雪に触れようとした。
冷え切った手に触れた雪は、瞬時に溶けて水に変わる。元々水気を多く含んだみぞれのような雪だった。絵や写真で見るような、六角形の結晶を、幸は見たことがない。

「積もればいいのに」

どうせなら、積もればいい。全てを覆い隠してしまうように。
この身体も、穢れも、全て見えなくなってしまうまで。

彼女の手も、短いスカートから出た腿も、剥き出しの素肌である。
雪に濡れてはじわりと冷えていく。
行き交う人々は次々に傘を差して行くが、幸には傘もなく、屋根のある場所に行く気もしなかった。
公園の冷たいベンチの上に座って、ただただ、雪の降りてくる空を眺めていた。

ふと、視界の端に何かが映る。
灰色の空を縁取る高い建物の上から、何かが舞った。深紅の花びらのような何かが。
それは、ふわりふわりと形を変えながら、蝶のような不規則な動きで近付いてきた。
そして、幸の真っ赤に凍えた指先に絡んで止まった。

「スカーフ?」

シルクだろうか、薄く艶やかなその布は雪の中を降りてきたのにほとんど濡れていなかった。
肩を覆うように羽織ってみると、冷気を遮ってほのかに暖かい。

さっきまで消えてしまいたいような気持ちだったのに、一度暖かさに触れると妙に生きたくなった。
どこか暖かい所へ行って、何かを食べよう。今はただ、それだけを考えよう。
幸はスカーフを首に巻き、ベンチを立った。

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