マシュマロ課題 チャレンジ課題3


チャレンジ課題3
お題:奇妙な裏切り
必須要素:男使用不可

庭園を擁した立派なお屋敷の一室、家人が皆寝静まった頃、夏美は密かに荷物を詰めていた。
−−−−誰にも見つかってはいけない。私たちは、二人だけで誰も知らない所に行かなくては。
彼女は駆け落ちをしようとしていたのだ。
恋人は花売りの女性、ミツといった。身分の違いもさることながら、女性同士で恋仲になるということは、この当時普通とはみなされていなかった。
待ち合わせ場所は言問橋の上。そこで待ち合わせ、上野で始発の電車に乗って遠くの街へ行くのだ。

夏美が橋まで来ると、暗がりに誰かがいる。
「ミツ…」
小さな声で呼びかけて駆け寄ると、そこにいたのは……夏美の母だった。
「夏美。彼女は来ません。うちへ帰りますよ」
「お母様!?何故……」
「あなたは騙されたのですよ。あのような卑しい者の言うことを真に受けてはなりません」
「そんな!ミツはそんな子じゃないわ。私たちは、お母様にもお父様にもご迷惑はかけません。二人だけで生きて行くと決めたのです。だから、行かせてください!」
抵抗も虚しく、夏美は家に帰されてしまった。

「あのお嬢さんには、苦労なんか掛けられないよ。まったく」
橋の下に潜んでいたミツが呟いた。
夏美の家人に駆け落ちの計画を伝えたのは、他ならぬミツ自身だった。
「まあ、これならよくある若い頃の思い出で終わるかな。いや、ヒヤヒヤしたよ。あんたかなり入れ込んじゃって見えたからさ」
ミツの隣にいた、別の女が言う。長身で、着物でも洋装でもないような、不思議な服装をしている。
「大丈夫、歴史を変えるなんて危ないことはしやしないよ。下手したら自分の存在だって無事じゃ済まないんだからさ」
「さて、データも集めたし、平穏な現代に戻りますか」
「ああ、こんなに人の生き方が違う時代だとはね。実際来てみてよく分かったよ。この時代の女って過酷だったんだね」

ミツと長身の女は、この時代より遥か未来から来た研究者であった。こんな奇妙な理由で裏切られたということを、夏美は知る由もなかった。

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