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産休への罪悪感を「持続可能性」という希望に

去年10月に娘が生まれてから、我が家にはお客さまが定期的に足を運んでくれている。

私と夫の互いの家族や大学時代の友人たち、趣味の仲間など……

まだまだ娘を連れて出かけ慣れていないし、自分から誘うのは得意じゃないから、「娘に会いたい」と連絡をもらえるのはとっても嬉しい。

中でも今日は、ちょっと特別で。

同じ部署の先輩と後輩が遊びに来てくれた。

会社の人を自宅に招くのは、これが初めてのことだ。

私が抱えていた仕事を、全て引き継いでくれた二人。自分の勝手な事情で負荷をかけてしまうことに申し訳なさしかなくて。妊娠がわかってからずっと、罪悪感のようなモヤモヤとした気持ちがあった。大好きな二人だから、気まずい関係になりたくないのに。

でも、もしかしたらこれは自分が勝手に抱えている感情なのかもしれない……と少しずつ思い始めて、今日の日を迎えることができた。

そのきっかけになったのは、産休に入る直前。去年の8月のことだった。


「独り立ちしてこれからというときに、申し訳ありません」

大きなお腹でみなさんの前に立ち、私はそう発していた。多分、顔を少し曇らせながら。

産休に入る3日前。会社の本部の人たちが集まる会議の最後に、挨拶をする機会をいただいて。何を言おうか、数日前からぐるぐる悩みつつ。

できるだけ「申し訳ない」ではなく「ありがとう」を伝えようと思っていたのに。罪悪感が拭いきれなくて、結局謝っている自分がいた。

自分で異動を希望して面接を受けて、1年前から本部に受け入れてもらって。もともとメインで担当していた先輩との1年を経てこれから独り立ち、というときに。しかも先輩は異動してしまって、これからは私が全てを担うべきだったのに。

先輩の異動と自分の妊娠が重なったことをどこかで恨みつつ……受け入れてくれた方々や、引き継いでくれる方々になんと言えばいいのかわからなくて。

安易な「申し訳ない」という言葉になっていた。

そんな中でもみなさんはあたたかく、私の挨拶が終わると寄せ書きや絵本、お守りなどをくださって。

勝手にいなくなる私に、なぜみなさんはこんなにも優しく送り出してくださるのだろう。

感謝以上に恐縮の気持ちが、大きくなっていた。



会の最後に言葉をくださったのは、本部長。
女性の本部長がまだまだ少ない中、パワフルに仕事に邁進されている憧れの方。

「さっき、申し訳ないって言葉があったけど」

私の方を見て、ゆっくりと口を開く。


「人が入れ替わっていくことは、持続可能な組織になっていくってことだから。」


持続可能な、組織。

確かに、前任の先輩が異動したからといって成り立たない組織であってはいけないし、そのために私はいた。

同じように、この本部は私が休みに入るからといって成り立たない組織であるはずがない。そのために、次に引き継いでくれる人がいる。

「休みに入って迷惑をかける自分」は、「人が入れ替わっても続いていく本部だと証明できる自分」なのかもしれない。
そう初めて思えた瞬間だった。

そうして別部署から新たに異動してきた先輩と、もともといた後輩が引き継いでくれることになり。

私の仕事は、彼女たち二人の仕事になった。


自分が本来担当するはずだった仕事を押し付けてしまった中で、母親業に勤しむ自分を見せるなんて……どんな顔をして会えばいいかわからないなあ……とも、思っていたけれど。

二人は仕事を抜きにした関係として「会いたい」「家に遊びに行きたい」と、言ってくれた。

それに、今となっては「私が担うはずだった仕事を彼女たちが代わりにしてくれている」のではなく、「彼女たちが彼女たち自身の仕事をしている」わけで。勝手に罪悪感を持つのは、むしろ失礼だ。

本部長が言うとおり、会社という組織はいろんな人たちが入れ替わりながら同じ仕事をしていくからこそ、個人に頼らない、長く続く組織になっていく。

自分がいなくても成り立つし、自分にしかできない仕事なんて、ない。

それでも、自分を活かした「自分ならではの仕事の仕方」は、きっとあるから。

まだ少し先の話だけれど……産休・育休を終えて復職したときには、これまでと違う「そのときの自分ならではの仕事」をして。持続可能な組織の一員になりたいと思う。

それが会社にとって、何より自分自身にとって、希望になることを信じて。

家に来てくれた二人とコーヒーを飲みながら、そんなことを考えた。

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