言葉好きにおすすめ!Netflixシリーズ"History of Swear Words"『あなたの知らない卑語の歴史』
リドリー・スコット監督、ニコラス・ケイジ主演の映画『マッチスティック・メン』について先日こちらで書きましたが、
作中でニコラス・ケイジが繰り返しPygmies!という台詞を言うんですね。文脈的におそらくイギリス英語でお馴染みBlimey!みたいなニュアンスの彼独自のcuss word(罵り言葉)かなと思うのですが、なぜ非常に小柄であることで有名なピグミー族を表すPygmyの複数形なのかは辞書にも載っておらずよく分かりません。
ということでネットでも調べていたところ、そちらは今も不明なのですが、代わりに同じくニコラス・ケイジが出ているswear wordをテーマにした面白いNetflixのオリジナルシリーズを見つけたので紹介したいと思います!
いやー、こんな番組があったんですね!
原題は"History of Swear Words"で、邦題は『あなたの知らない卑語の歴史』。
fuck, shit, bitch, dick, pussy, damnの6本立てで、ふざけてんのかというラインナップ(笑)ですが、内容はいたって大真面目で、これらの言葉の語源、使われ方、またその効能などを言語学者、辞書執筆者、認知科学者などの識者の見解も交えつつ紹介・検証していくスタイル。番組司会を務めるのがニコラス・ケイジで、大真面目にふざけるというコンセプトにこれほど相応しい人物もいないでしょう。
これらswear wordsは学校英語・検定試験などではまずお目にかかることはないですが、「ヘイズ・コード」廃止(1968)以後の映画・海外ドラマなどを観ていると逆に使われていない作品を探す方が難しいくらいですね。先日私のnoteでも紹介したMystery Parrot(ミスパロ)さんのフレーズ本の中でも数多く言及されていて、欠かせない日常語であることがよく分かります。
言葉好きなら各語の語源にまつわる蘊蓄もきっと面白く感じられるはずで、例えば、fuckは古くからある語だけどもともとは中世オランダ語で「打つ」といった意味で、「性交」の意味はなく、14世紀頃からその意味が加わるもしばらくは別にタブーでもなかったとか。また「王の承認後の性交(Fornication Under Consent of the King)」というフレーズのアクロニムであるという珍説(勿論これは間違いですが)まで出てきます。
またこれらの言葉の効能としては、行為と共に発することで具体的に握力の数値が5パーセント増したり、痛みや寒さが軽減されたり、また社会的プロテストソングになったり、
ストレス解消や創造力の源にもなるといったことが番組中では挙げられています。
これは英語だけでなく、日本語でもそうでしょうね。例えば、映画『アウトレイジ』シリーズの面白さの一つは日本語の罵り言葉の掛け合いが独特のうねりとカタルシスを産み出すところですから。
映画好きとして興味深かったのは、もっとも多くFワードを使った俳優ランキングなども紹介されていたこと。私としては『パルプ・フィクション』のサミュエル・L・ジャクソンか、
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のディカプリオあたりかなと思っていて、
実際その両名は上位にランクインしているのですが、1位はちょっと意外な(?)あの俳優でした。気になる方はぜひNetflixでお確かめあれ!
他にも個人的に初めて存在を知って驚いたのが、bitchの回に出てきたLucille Boganという女性ブルース歌手の'Till the Cows Come Home'という曲で、1934年録音のものとは思えない超過激な歌詞と歌唱に深く感銘を受けました。
演者たち驚愕のリアクションも納得です。。
最後に、番組を観ながら想起したのは、私の最も好きな映画監督の1人スタンリー・キューブリックの遺作『アイズ・ワイド・シャット』(1999)という「性愛」を主題とした作品でして。
『現金に体を張れ』『バリー・リンドン』『時計仕掛けのオレンジ』『2001年宇宙の旅』などなど各ジャンルの歴史に残る傑作群を撮ってきた巨匠のフィルモグラフィー最後の作品がこれで、しかもその最後の最後の台詞がこれなんですよね。
公開当時まだ若かった私は呆れかえったものですが、今となっては、でも人間結局そういうことなんよなあと妙にしみじみ趣深かったりもします。