'you was'? に関する私見。Rayeの'Hard Out Here'より
今月号の『CNN ENGLISH EXPRESS』を入手。さっそく一つ目の記事、英アーティストRayeに関するものを読んだところ、彼女のイギリス英語にも興味を惹かれ曲もいくつか聴いてみています。
その中の'Hard Out Here'という上の曲で次のような表現がありました。
これは彼女が、社会・音楽業界・薬物依存などさまざまな抑圧に苦しみ、bounce back、立ち直ろうとする内容の曲。
引用部分の意味は、
And I'm about to have
these grown men crying
(そして私はそういった大人たちを泣かせにかかってるところ)
You wasn't trying
(Youは試してみようともしなかった)
You was sitting on diamonds
(ダイアモンドの上に腰かけていたのに)
といったところで、diamondsはRaye自身を含む才能ある若手アーティストたちのことを指していると思われます。
そうするとこのyouはgrown men、業界を牛耳っている(特に引用箇所の前段に言及されている白人男性の)大人たちを指すと考えるのが自然ですが、ここでのbe動詞が本来文法的に正しいwereではなくwasとなっているのが興味深いところ!
こういった単複一致のズレは俗語やヒップホップの歌詞などではときおり起こる現象ではあるけども、you wasという組み合わせは比較的珍しいような気がします。
ここからは完全に私見ですが、このyouはRayeが特定の1人を念頭においていて、それであえてbe動詞をwasにしているのではないだろうか?
中学1年生で習うように、youという語は「あなたは」と「あなたたちは」が単複同形という日本人からすると不思議な二人称代名詞(歴史的にはthouとyouで使い分けがあったが)。形だけではどちらの可能性にもとれる場合がある。
この曲の文脈だとyouはgrown menの複数を受けると考えるのが自然だけど、仮にRayeがこのとき思い描いているのが特定の1人の人物だとしたら、そのニュアンスを強調するためにあえて単数のwasを使った可能性はないだろうか?
私および才能あるアーティストたちを無下に扱っていたあいつめ、成功して泣かしてやる!という個人的な情念を込めて。
日本語にはこのような主語-動詞で単複を一致させる文法がないので学習者にとってはやっかいだけれど、両者を対照して面白いところでもあります。