But I'm a Stalin too.における不定冠詞aのニュアンス ━ユヴァル・ノア・ハラリの新刊"Nexus"より
一連のユヴァル・ノア・ハラリの新刊"Nexus"関連のnoteになります。今回はChapter 2のStories: Unlimited Connectionsよりの引用。話としては、人々は「物語」によって大規模につながるようになった、それがたとえ何百万もの追随者を持つ個人のカリスマ的リーダーであっても例外ではない、として旧ソ連のスターリンの例が出てくる流れです。
ここで注目したいのは息子ワシーリーが言ったとされる"But I'm a Stalin too"のところ。Stalinという固有名詞にaがついてますね!日本語訳だと違いを出しにくいのですが、ここではどういったニュアンスになるでしょうか?
原則として人名に不定冠詞aはつかないはずですが、この例外的な用法については、石原健志先生の『受験英語をバージョンアップする』でメトニミー(換喩)の一種として紹介されていました。
そしてそのメトニミーを「参照点理論」で説明する流れで、以下の例が列挙されています。(pp141-143: ちなみに同書の用例番号9は10の誤植だと思われます)
〜〜〜〜
Toyota(参照点) a Toyota(ターゲット)
企業としてのトヨタを参照点としてトヨタ車を指す。
Mr. Johnston(参照点) a Mr. Johnston(ターゲット)
ジョンストンさん(確定性)を参照点としてジョンストンさんとかいう人(不確定性)を指す。
Einstein(参照点) an Einstein(ターゲット)
アインシュタインを参照点としてアインシュタインのような人を指す。
van Gogh(参照点) a van Gogh(ターゲット)
ゴッホを参照点としてゴッホの作品を指す。
Smith(参照点) a Smith(ターゲット)
スミス家を参照点としてスミス家の一員を指すと。
〜〜〜〜
では、ここのa Stalinはどの用法に当たるでしょうか?
ここの話者ワシーリーはヨシフの息子なのだから、まずは最後のa Smithと同様にスターリン家の一員を指すのは間違いないでしょう。
ただここではそこに留まらず、スターリン家の一員なのだから自分も父ヨシフ・スターリンのような圧倒的な権威性を持っていて良い、といったような意味合いも含んでいると思われます。上記の引用で言うとan Einsteinの用例に近いでしょうか。
本文ではそれを受けて父ヨシフは「スターリン」の「物語性」を息子に説いて聞かせるという流れが来ると。
まとめると、ここで息子ワシーリーの言ったa Stalinとは自分がスターリン家の一員であり、また同時に父ヨシフ・スターリンのような権威性を持って良い、といった意味合いがあると思われます。冠詞一つにいろいろな含みがあって面白いですね!
それにしても日本のパンクバンドThe Stalinって凄いネーミング。こちらも定冠詞theを使った一種のメトニミー(換喩)と言えそうですが、いかに修辞法だと言い張っても、今ならメジャーデビューはまず難しいでしょうね。。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?