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「詐欺師」を表す英語はいろいろある。日本語もいろいろある。それってつまり...... ━━映画『マッチスティック・メン』をきっかけに
来月公開予定の映画『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』を今から楽しみにしているのですが、その予習としてリドリー・スコット監督の過去作をいろいろ観ていたところ、Netflixで『マッチスティック・メン』(2003)という作品が配信されていまして。
ニコラス・ケイジとサム・ロックウェルがコンビの詐欺師を演じる映画なのですが、英題の"Matchstick Men"ってどういう意味なんだろう?棒人間?でもそれは普通はmatchstick figureのようだし。。
辞書にはあまり載っていないけれど、どうやら米語のスラングで「詐欺師」の意味があるらしい。
そこで思ったのですが、「詐欺師」を表す英語表現ってやけにたくさんあるなあと。ウィズダム3の和英をみても、a swindler, a fraud, a confidence man, a con manなどなどたくさん出てきます。
この手の詐欺師映画の代表格『スティング』"The Sting"(1973)の
stingなんかも「騙し、詐欺」の意味で、作中ではsting operation「おとり捜査」が描かれています。
また有名なビリヤード映画の『ハスラー』"The Hustler"(1961)の
hustlerにもギャンブルで金を巻き上げる詐欺師の意味があります。
そういえば最近これもNetflixで話題の『地面師』の英題は"Tokyo Swindlers"で、
swindlerも「詐欺師」を意味しますし、長澤まさみ主演の人気シリーズ『コンフィデンスマンJP』も
信用詐欺師のa confidence manですね。
こうしてみると言葉だけでなく詐欺師をテーマにした作品も、多いんだなあ。
また英語だけでなく、日本語でも「詐欺師」の類義語には、ペテン師、いかさま師、山師、食わせ物、香具師などなどいろいろあります。
洋の東西を問わずなんでこんなに「詐欺師」を表す言葉は多いのでしょうか?そしてなぜそんなに私たちは詐欺師に魅せられもするのでしょうか?
思えば、「物語の出で来はじめの祖」とも称される『竹取物語』の昔から詐欺師は大活躍してきました。かぐや姫に求婚する5人の貴公子にはそういう人物が多く、中でも仏の御石の鉢を姫に要求された石作皇子が偽の鉢を用意する話とか中国商人に騙されていかものの火鼠の皮衣に大枚はたいて結局無為に終わる阿部のみむらじのくだりは滑稽で印象深いところ。
また西洋でも旧約聖書のアダムとイブが禁断の果実を食べて楽園を追放されるのは、蛇の奸計に始まったことでした。
人は「物語」の最初期から詐欺の話を繰り返し好んできているので、その表現も豊富なんでしょうね。そしてそれは「言葉」が多くの人をつなぐものであると同時に「現実」を完全に表象するものでもないという特質から来ているのかなと。言葉というツールは本質的に現実からズレる「詐欺」と相性が良い!?
最後はいささか抽象的な話になってしまいましたが、そんなことをユヴァル・ノア・ハラリの新刊"Nexus"をちびちび読みながら考えたりしています。