悩みをひとりで抱える人が、誰かに話せる社会にするためにできることは?ー「対話その10 らっきーさんゲスト回|精神疾患や自殺の話をタブーにしないこと」より
はいさ~い! こんにちは~、こんばんは~!
皆さん、今年の夏はパイナップルは食べましたか??🍍
今回取り上げる「wish you were hereの対話その10」のゲストは、沖縄県の石垣島でパイン農家をしておられるらっきーさんです。
千葉県出身で約10年前から石垣島にお住いのらっきーさんは、石垣島でパイナップルやかぼちゃ栽培の仕事をする傍ら、相方のひでさんと一緒に石垣ラジオというpodcastをされています。石垣島のおもしろい人たちをテレフォンショッキング(若い人にはもう伝わらなかったりして)のようにリレー形式でゲストに呼んで話を聞くpodcastで、2021年の1月から週に1回のペースで配信を続けておられ、配信回数は2023年10月時点でなんと180回以上!
精力的に配信を続けておられるらっきーさんたちですが、数回に一度、番外編として、うつ病をテーマに扱い、うつ病経験者やメンタルヘルス関係の仕事をされている方と話す、通称”うつ回”もされています。
2022年の9月に収録した第10回のwish you were hereの対話では、らっきーさんに、”うつ回”の配信をしようと思った理由をお尋ねしたあと、「うつ病や自殺について話しにくい社会を変えていくためにできること」について話をしました。そこから話は流れていき、「ひとりで抱えてしまいがちな人が悩みを話しやすい居場所ってどんなところ?」というテーマでも話しています。石垣島の楽しいエピソードも出てくるので、まだの人はぜひ、実際の対話の音声も聞いてみてくださいね。
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収録の序盤では、らっきーさんが石垣島でされているpodcast、石垣ラジオの中で、”うつ回”を始めた経緯についてうかがいました。
”2人目のゲストの人もメンタル不調だって聞いたときに「え?うつ病の人ってそんなにたくさんいるの!?」って”
下地さんが石垣ラジオで最初にうつ病経験を語った回はこちら↓
放送のなかでらっきーさんが話してくださっていますが、「ハッピーな人たちが多い南の島」という印象を持たれやすい石垣島ですが、実は石垣島でも精神病や自殺は少なくないのだそう。
石垣ラジオは普段から、居酒屋での会話のような、楽しいテンションで配信しておられますが、番外編の”うつ回”も、他の回と変わらず、明るくうつについて語っているのが特徴的です。その点についてもお尋ねしました。
”世の中的にも、うつ病をフラットに語れるようになった方が良いんじゃないか”
ちなみに2人目にゲストに来る予定だった方は、石垣島に移住してきて間もない頃にメンタルの調子を崩していたようで、やがて慣れてくると、いろんな人と打ち解けて、自分をさらけ出して海に飛び込んだり、カラオケで脱ぎながら歌ったりするようにまでなったそうです。笑
次に、「会社のなかだと、周囲の人にうつの話を打ち明けづらいんじゃないか」というよだかさんの発言から、うつ病やしんどい気持ちを話しにくい関係や、逆に話しやすい関係性、シチュエーションについても話しました。
podcastのなかで、ご家族の鬱やご自身の様々な経験について話をしているらっきーさんですが、農家として独立する前に働いていた農業法人では、お父様の自死の話を会社の人にはしていなかったそうです。
石垣島は自営業の人が多く、自営業どうしのつながりだと込み入った話もしやすいようですが、会社組織のなかや、島育ちの人にとっての生まれ育った村社会などでは、噂が広がりやすいこともあり、話しづらいこともあるという話がありました。
鬱や自死の話だけでなく、家族の病死なども含めて、「死」についての話すことが、学校や会社など、普段過ごす時間の長い集団のなかではしづらい印象があります。その話をすることで他の人を動揺させてしまったり、仕事や学業など、目の前のことに集中することを妨げてしまうのを防ぐための配慮なのかもしれませんが、誰にも話せず自分ひとりで抱えていないといけないというのも、辛いものがあります。
らっきーさんは、会社などではしづらいような話をしやすい場を作る活動を始めることも考えておられるようです。
”会社じゃないところに、相談できる場所があったり、相談できる人がいるっていうのはやっぱりすごく大事だと思うんです。”
自宅や学校、職場以外の、居心地の良い「第3の場所」を表すサードプレイスという言葉がありますが、石垣島だけでなくいろんな街に、それぞれの人の関心に合ったサードプレイスがたくさん存在して、ひとりひとりにとっての安心できる居場所として機能すると素敵だと思います。
一方で僕は、大人になってからそのような居場所やコミュニティのありがたみを知ったものの、子ども時代には学校や塾以外に、大人の人と話せるような居場所がなく、家族の悩みをなかなか他の人に打ちあけられない時期が長くありました。
学校以外の人とのつながりが少ない子どもが、身近な人の死の話や家族の問題などを話せるようになるにはどうしたらいいかについても話しました。
らっきーさんは、「人気漫画のなかで、いろいろな事情を抱えた人を描くのがいいと思う。」と話してくれました。
たとえば、これは僕が好きな漫画ですが、「あひるの空」という高校のバスケットボール部を主題にした漫画では、主人公が母親を病気で亡くしますが、その場面の心理描写などもしっかりと尺をつかって描かれています。
そういった、家族の死の話がメインテーマではないような漫画のなかに、いろいろな事情を抱えた登場人物がいて、それぞれの複雑な感情も描いてくれていれば、授業などで先生がそれを教材にもできるんじゃないか。そうすれば自発的に感情を言語化して誰かに伝えることが難しい子どもでも、自分の感情を理解する機会にもなるんじゃないかと話しました。
もちろん、親の病気や死だけでなく、離婚やネグレクト、虐待、障害や、マイノリティーであるがゆえに受ける差別など、いろいろな厳しい状況に置かれた子供たちがいます。発達段階によってはそれを特殊なことだと思わなかったり、気づいたとしても誰にも話せず抱え込んでしまうことはたくさんあると思いますが、何か、打ち明けるきっかけとなるような学びの機会があれば良いと思いました。
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タブー視から自分ごとに変化するきっかけ
収録の後半では、収録前に僕たちがらっきーさんに質問をしていた、うつ病のことをpodcastで扱い始めてから、らっきーさんたち自身や、周りの人たちの様子に何か変化があったかを話していただきました。
下地さんは、うつ病だったことを開示することで、それまで感じていた周りとの壁を感じなくなったそうで、らっきーさんも、石垣ラジオでお父様のことを話してオープンにすることで、自分はもう大丈夫だから、自分が関わることで楽になる人がいるならそういう話ができる居場所を作っていきたいという気持ちになったそうです。
「自分の境遇をシェアしておくと、向こうからも話やすいんじゃないか」
とおっしゃっていましたが、これについてはまったく同感で。
"wish you were hereの対話"をはじめようと思ったのも、それが理由でした。
また、「石垣ラジオ」のロゴを作った仁さんという方が、うつ回についての感想をらっきーさんに伝えておられ、そのなかで仁さんのタブーについての考え方を話していたそうです。
仁さんは、タブー感を持ってあまり語ろうとしないのは、適切な遠慮でもあると思い、うつ病というものとの関わり方を三つに分けて考えていました。
仁さんは、もともと二つめの状態だったのが、元々仲のよかった下地さんの過去のうつ病体験を聞くことで、三つめの状態に近づいたと話しておられたようです。
友人にうつ病の人や、うつを経験した人がいると、自分はなったことがなかったとしても、誰かから自身のうつ病のことを開示されたときに、「僕の友達にもそういう人がいたよ」っていうことができるようになる。そうすると、相手も話しやすいかもしれません。
仁さんのように、友達の状況を知って、三つ目への段階へ変化することがいろんなところで増えていけば、鬱を打ち明けやすい社会になっていくんじゃないかと話しました。
”みんな年をとるごとに、いろんなことが自分ごとになっていって、周りの人の受け止める力も変わってきたのかもしれない。”
最後に、僕たち自身の悩んだときに相談する相手についても質問してもらいました。ちなみに僕の場合は、ジャンルによって困りごとを話す相手が違っていて、そのときの悩みの種類で相談相手を決めているような感じがします。
その話のなかで印象的だったのが、らっきーさん自身がおっしゃっていたこんな言葉でした。
僕やよだかさんは子どもの頃に親を亡くして、同い年の友人などにそういった話をするのが難しかったですが、年を取れば皆、遅かれ早かれ、親や身内
、友人などを亡くす経験はしていくものです。そうして年を重ねるごとに周りの人に相談しやすくなるのなら、いま生きづらさを抱えている人も、生きていれば少しずつ生きやすくなっていくのかもしれない、なんてことを思いました。それと同時に、やっぱり子供って大変だなあと思いました。
最後になりますが、らっきーさんとの対話のなかで印象的だったのが、農園の居場所づくりの活動などを、使命感を持つのではなく、自然とやっていきたいという考え方でした。「楽しさややりたい気持ちよりも、義務感がまさってしまうと自分もしんどくなってしまうし、苦しい自分についてきたい人はいないだろうから、『やりたいからやる。楽しいからやる。』という気持ちを大事にしたい」とおっしゃっていました。
確かにそうだよなと思いました。誰かに楽になってもらいたいという願いから始まる活動は、使命感が強くなりすぎて、活動する側がしんどくなってしまうということも珍しくないように思います。
責任感を持って取り組むことのメリットももちろんあると思いますが、「やらないといけないんじゃなくて、やりたいからやる。楽しいからやる。」というスタンスで取り組む選択肢があってもいいし、そう思うことで、やる側も参加する側も楽な気持ちで、結果的に長く続いていくこともあるんだろうなと、石垣ラジオを180回以上続けておられるらっきーさんの話を聞いて、感じたのでした。
■人に悩みを話すことの効果について
この回の対話を振り返りながら、あらためて人に悩みを話すことの効果を自分なりに整理してみました。
僕自身、過去の経験などを話して楽になったことがあるのでこういった対話の活動をしているわけですが、誰かに話すことは、いろいろな感覚やきっかけを生み出すと思います。これは僕の考えですが、改めて整理してみました。
・人に受け止めてもらえる安心感(負担感の軽減)
まずは、それまでひとりで抱えていたしんどい思いやトラウマ的な経験を、誰かに受けてもらうことで楽になれるということ。もちろん相手の受け止め方にもよるとは思いますが、聞いてもらい、相手に共有することで気持ちが軽くなることがあります。
・具体的な困りごとの整理と解決
現時点で生活面や対人関係などで困っていることがあれば、それを他者に話すことで、話した人が客観的に課題を整理をしてくれるかもしれません。もし相談相手がその課題に解決に必要な知識や知恵を持っていれば、そのまま解決につながることがあります。たとえ相談相手が解決策を知らなくても、相談相手の知り合いにその分野に詳しい人がいれば、その人に繋いでもらうこともできるかもしれません。
・孤独感の解消
誰にも話せないままでいると、周囲の人との間に壁を感じて孤独感を感じてしまうことがあります。特に、周りにいる人たちの置かれた状況(実は他にも似た悩みを抱えている人がいること)を知らない子どもに多いかもしれません。誰かに話して受けてもらうことで、その感覚がやわらぐように思います。また、「自己開示の返報性」という心理学の言葉がありますが、自分が自己開示することで、相手も打ち明け話をしようと思うことも多く、「自分だけでなく他の人もそれぞれいろいろなものを抱えているんだなあ。」と気づくことで、孤独がやわらぐこともあります。
・対話を通して考え方に変化が起きる
悩みを話すことで、似た経験をしてきた他の人の素敵な考え方に触れることができたり、自分の考え方の癖に気づけることがあります。仮に同じ経験だとしてもどう捉えるかは人によってそれぞれに違っていて、相談した相手の捉え方、考え方を知ることで楽になれることもあります。
・新たな目標ができる場合も
たとえば今回の対話のなかで、「自分はもう大丈夫だから、自分が関わって楽になれる人がいるなら、そういう人たちのための場づくりや関係性をつくることをしたい」とらっきーさんは話しておられました。人に話を聞いてもらって自分が楽になり、さらに、自分以外にいま苦しい状況にいる人のことを知れば、その人が楽になるような活動をしたいと思えることもあります。そうやって目標ができて前に進めば、その活動が、やがてその人の生きがいになるかもしれません。
もちろん、なんでもかんでも人に話せば楽になれるというわけではないですし、相手の受け止め方や対応によっては、余計に傷ついてしまうことも起こりえます。悩みの内容や相談したい相手との関係性、自身の年齢(発達段階)等にもよりますが、ある程度自分が消化できたタイミングで話すのが良いこともあります。また、抱えきれない悩みがあってどうしようもなく辛いときには、大まかな内容だけを信頼できる人に聞いてもらって、カウンセリングやメンタルクリニックを利用するべきかどうかを相談するということもありだと思います。本当にしんどいときにひとりだと、「人に話すべきかどうか」「話すなら誰に話すべきか」なども、うまく判断ができないものです。
その分野に詳しい人が周りにいなくても、「自分の抱える悩みにどう対応すればいいかを、身近にいる人に相談する」ことも有効なので、やはり、話したくなったときに話せる人がいること、話せる人のいる場所があることの価値は大きいんじゃないかなと思います。
■今回のゲストの紹介
■らっきーさんの農園「てぃだぬファーム」
■石垣島の人たちにリレー形式でインタビューする「石垣ラジオ」
■らっきーさんが個人で配信されているpodcast「ハルサーのつぶやき」
■wish you were hereの対話の実際の音声はこちらから。
stand.fmとポッドキャストでお聞きいただけます。
■こんなpodcastもあります。
うつ病ラジオ
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