元好きな人にまだときめく話

夜開けられた窓の隙間からこんばんは。
れいらです。
好きなひとがいました。とても背が高くて目が見えないほど前髪が長くて、柔らかく笑うひとでした。
一つ上の先輩である彼は私にとってすごく大人に見えて、彼の教室の前を移動教室で通るときは本当に息もできないほど緊張して何度も鏡を覗きました。
初めて話した時、彼は覚えていないかもしれません。
文化祭で出番が前後だった時にかけてくれた「頑張って下さい」
あの笑顔に、見えないほど細くなる目に、私はどうしようもなく惹かれてしまいました。
お世話やきな友達のおかげでなんとか連絡先を交換して話す機会をもらって、きっと彼にとってはその時に私と初めましてしたのだと思います。
緊張で靴の先しか見つめられない私にタメ口でいいよと彼が笑うものだからとても戸惑ってわかったますなんて今流行りのキャラクターのような話し方をしてまた恥ずかしい思いをしたのでした。
きっと彼は私の気持ちに気づいていたはずです。
バレバレだよと友達に笑われてしまうほど私はその人の前で私じゃなかったし、いつも無意識に探してずっと見つめてしまう程度に私は盲目でした。
それでもあまりにもぎこちない会話、静寂、全てに彼は笑顔をくれました。
時間をかけて少しずつ彼からの通知が増えて、すれ違った時に笑顔で手を振ってくれるようになって、私は溢れる好きをどこへも持っていけずただ彼を想っていました。
でも、いつだってそううまくはいかないんです。
「好きな人がいるんだ」
そう彼がはにかんだ時、ああ知ってるよって泣き出しそうになりながら言いたくなりました。
彼が惹かれていたのは、後輩の間でも有名なかわいい人で、その笑顔と愛くるしさに彼は守ってあげたいと思ったのだと言いました。
「頑張ってね」
震えながら絞り出した言葉に、彼は気づいていたのでしょうか。
一言だけ謝罪の言葉を添えました。
「ごめんね」
それ以来、私たちが話すことはめっきりなくなってしまいました。
皮肉なことにそんな関係になってからの方が偶然遭遇することが増えた気がします。
教科書を抱えて歩きながら廊下の隅に立つ彼を見つけて、そう思います。
あれからもう一年。早いですね。あなたが卒業するまでもう半年を切っています。
心の中で話しかけて、慌てて顔を引き締めます。
また彼に悟られてしまわないようにって。
私ね、彼氏ができました。
とても優しい人で、まるで私が繊細なガラスかのように大切にしてくれます。
でもね、すれ違うたびに、目が合うたびに、名前を見るたびに、どこかで胸が疼くんです。
どうしてなんでしょうね。
一年前、好きと言う感情と引き換えに私はあなたとの関係を捨てました。
それが正しかったのかはわからないけれど、まだきっと正しいと、正しくなかったと、言い切れないんだと思います。
目が、合う
彼が、そらす
すれ違う
ああきっとまだあなたが好きなのねと笑みが溢れる。
こっそり振り返ると、もう彼はいませんでした。
もう会わなければいいのにと思いながら私は携帯を出して写真フォルダを開き、勢いに任せて彼との写真を消しました。
いつになったら元好きな人になるのかしら、しなくちゃいけないのにね。
「好きじゃないよ」
本音を包んだ嘘と、自分に言い聞かせる気持ちを廊下の隅に置いて、私は歩き出します。
次目が合った時にちゃんとそらせるようにと願いながら。

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