夏の終わりを誰か教えてくれたっていいと思うんです
秋空が嫌いです。
朝起きてほっぺを枕から剥がして起き上がるとずり落ちたタオルケットの隙間から涼やかな空気が腕を追ってきてどうしようもなく切なります。
夏が終わりかけて人が長袖を着るようになると少しずつ空が高くなり、日が沈むのが少し早くなり、そっけない雲がいくつもの雨を連れてきては暖かい空気をさらっていきます。
その度に澄んで透明になっていく空を愛しく思うと同時になくなる彩度を取り戻そうと背伸びをしてももう高くなってしまった空には届きません。
「行かないでよ」
つぶやいたらその言葉は案外安っぽくてそれすらもうやりきれない。
んぐう
おおむね、んぐう。
なにも吐き出せず、吐き出したくて。
胸のどこかでつっかえてしまった夏の空を、 消したくなくて、
でも確かに消えて無くな っていくそれを言葉にできたのならなくならないでいてくれるんじゃないかと粘るんだけれど、気づかない間に消え去ったそれは甘い匂いを残してお腹に居座り続けます。
寝る前、 布団を胸まで引っ張り上げて祈ります。
夏の間冬の到来を願った私を許してくださいと。
どうか、これ以上私から空を奪わないでと。
また朝が来て、 昨日より弱い太陽の光をねめ付けて起き上がります。
意地で半袖の制服を着続けている私を、 母が季節感のない人だねと鼻で笑いました。
靴先をトントンと鳴らしてドアを開けると風がばかだねと言わんばかりに体を包み、体温を奪っていきます。
「上着いらないの?」
「いい。いいの」
歩き出すと近くの公園から金木犀の匂いが漂ってきました。空はもう彩度を失って素知らぬ顔。
「君とは仲良くなれそうもないや」
そんなの関係ないわと言わんばかりに風が前髪を揺らします。
どうしようもないなあ。
そんな空がきっと私は大好きなんです。
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