てのひら島はどこにある
まだ、世の中が20世紀だったころ、といっても昨年の4月の末頃のことである。当方のWEBを読んで、「鬼ヶ島通信」を申し込んでくれた方がいらっしゃった。ありがたく、鬼ヶ島通信の事務局をご紹介したのだが、ご丁寧にお礼のメールをいただいた。そのメールにある名前をしげしげと見ているうちに、その名前がとある(十年来新作を発表されていない)作家の方と同じであることに気がついた。
遠慮とか、配慮とかいうをかなぐり捨てて、ふと浮かんだ疑問をそのままそのメールの主に投げてみた。ご返事をしげしげと見たところ、まさにその方自身であったことが判明したのである。(失礼を顧みない私であった。今から考えても冷や汗もの・・・)
「晴天の霹靂」とは、こういう時のためにある言葉である。本当にビックリした。
前振りが長くなったが、その方のデビュー作であり最近十年ぶりに再発行された本について、私にいただいたメールには、「あれ(その作家の方のデビュー作)は、私にとっての「てのひら島」です」と書かれてあった。
タロウのおかあさんが作った、小さな虫の神様の話は、タロウや双子のお姉さんが好きなように作り替えて楽しんでいた。あるときタロウは、トマト畑で青いトマトをもいでいるところを、とあるおじいさんに見つかって、しかられる。だが、仲良しになった二人は、おじいさんの家に行き、タロウはおじいさんの孫娘、ヨシボウにあう・・・
全編、ファンタジックではあるが、現実離れしたことは発生しないお話。現実の話と、タロウのお母さんが作った話、タロウが作った話で構成されている。双子の姉、戦争に行ったお父さんがそのまま帰らなかったことなど、佐藤さとる氏自身がモデルになっていることや、作品のモチーフになっている「出会い」について、もとの話であるところの「井戸のある谷間」の関係など、興味の尽きない物語である。もちろん興味だけではなく、タロウをはじめ、ヨシボウのおじいさんやヨシボウなど登場人物の描き方も、生き生きと描かれている。
前振りでふれた作家の方に「てのひら島」があったように、だれにでも「てのひら島」はある。かく言う私にも、今の家内との間に、たぶん他人には言わない、子供にも語らないかもしれない「てのひら島」がある。あなたも自分の「てのひら島」をひっそりと確かめて見て欲しい。
#「そして、さんざん手古ずらされてしまったためか、「てのひら島」は私 # の最も好きな作、となってしまった。」
# 講談社文庫「てのひら島はどこにある」あとがきより:佐藤さとる
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インターネットでの出会いは、限界が無いようだ。冒頭のエピソードも不可思議な事象の積み重ねの上に発現した。佐藤さとるさんとの出会いもインターネットが無ければなかっただろう。このWEBページも同様。世の中、何が起こるか分からないから面白い。
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