だれも知らない小さな話

 作家が物語を紡ぐときの道具ともいうべき、モチーフはさほど多くはないと思う。どんなにすばらしい作家といえども、高々片手くらいだろう。そのモチーフをどのように料理するか、どう盛りつけるかが、作家の腕の見せ所である。
 作家がその想いを語るエッセイは、モチーフそのものを拝見する「素材紹介」のようなものだ。下手をすると台所の状態が丸見えになってしまうので、ご遠慮したい方もいるかもしれない。そのモチーフをどれだけ磨き上げているか、その作家の人間性も垣間見ることができるともいえる。
 ところで、佐藤さとるさんのエッセイはこれまで数少なく、その台所裏をなかなか覗くことは、なかなか出来なかった。そんな中でも、ファンタジー全集の中にある「サトル島」の話は、印象的であった。


私の心象風景のかたすみに、いまも一つの小島がある。青く澄んだ池の水に森の木々が逆さに映り、小島はこんもりと常緑樹におおわれていて、白く塗られた樽型の小屋が半分かくれて見える。
~中略~
その島の名をサトル島という。
(だれも知らない小さな話:偕成社より抜粋)

 佐藤さんの作品の中にあるある種の郷愁感、小さいときの鬼ごっこや秘密基地ごっこに近い感覚は、こんな所に潜んでいるのかもしれない。コロボックルの小山や、井戸の谷間、てのひら島や、ジュンの鉄塔のある山、りゅうのたまごのある河原など、私たちはサトル島の風景をあちこちの作品から、すこしづつ覗かせていただいている。今宵もサトル島の風景を見に「佐藤さとるさんの世界」に出かけるといたしましょうか。

佐藤さとる・著 村上勉・画 偕成社

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