小鬼がくるとき
初めてこの物語を読んだとき、いったい小鬼は何の象徴なのだろうと考えこんだ記憶があります。 今回、読み直してみてやっぱり謎が私の中に残りました。別にたいした悪さや邪魔をするわけでも なくただ、現れるたびに主人公のシノブにムズガユイ思いを残していく。主人公の少年がちょっとづつ、 ひとつ年下の我がまま娘チコちゃんに対して新しい感情をおぼえるたびに、小鬼は現れたり消えたりします。
いつから子どもははっきりと異性の区別をつけるようになるのでしょう。個人差はあるでしょうが、 幼稚園から小学校へすすんだ段階で最初の変化があるように思います。恋愛感情とかではなくただ、 なんとなく男の子と女の子は違うんだなぁ、と認識し始める。佐藤さんはそのおぼろげな意識の変化 を小鬼を使って表現されたのかもしれません。
後半でチコちゃんが引っ越すと知ったときの、シノブの感想も興味深いものがあります。
『チコちゃんが遠くへ行ってしまうことについて、ぼく自身は悲しみやさびしさよりも、むしろ新 しいことを一つおぼえさせられたような気がしました。(そうか、人間って、こんなふうにあっけなく 別れてしまうことがあるのか)そんな受けとりかたで、かえってさっぱりした気持ちになったほどです。』「小鬼がくるとき」本文より引用。
シノブの心の成長を感じさせるくだりです。(「別れは突然やってくる」。大人になるとなかなか さっぱりと気持ちを切り替えるのは難しいですね)モモの木の下でのチコちゃんとの別れのシーンは、ちょっと感動的です。あっけらかんとしていた はずのシノブが、チコちゃんの思いにふれたとき、別れの悲しさを実感します。いよいよ クライマックスというときに小鬼が再び登場。このあたりの話のもっていき方は、本当に佐藤さんは 見事ですね。それにしても小鬼はなぜシノブのそばにいるのか?はっきりさせないことでこの物語は おもしろさがあるのかもしれません。
追記
先日、文庫版の「小鬼がくるとき」をなにげなく手にしたとき、ちょっとおもしろいことが ありました。「小鬼がくるとき」は背表紙が緑色のものと茶色のものを持っています。茶色のほう を後から購入したのですが(ちなみに私は茶色の背表紙ヴァージョンが一番好きです。なんとなく 白や緑のものより味があるようにおもえて)買ったときはぱらぱらと頁をめくった程度でした。 感想文のために書棚からひっぱりだしたとき、何故か茶色の「小鬼」の中身が「口笛を吹くネコ」 になっていたのです。え、え、え???前の所有者が間違えたのかしら?と最初は思いましたが、 なんてことはない、私がカバーの掛け違いをしただけのことでした。パラフィン紙をカバーに つけるのが私の趣味で、そのときに間違えたらしいのです。でもなんとなく「小鬼」に化かされた ような気分でした。(苦笑)
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そういえば、このnoteの記述、本の題名は記載しているが、著者/本の題名/出版社が記載されていないなぁ。あとで修正・過筆しなくては。
この本は、佐藤さとるさんの講談社文庫をもとに記載されています。ただし2021年3月現在、絶版です。
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