りゅうのたまご
ご存じ、否含山シリーズの一編。
上州は否含山の麓にある高取村の庄屋の六男坊の六之助。文字通り末っ子で上に5人の兄がいる。ある夏の日、不思議なにおいに包まれた、瀕死の侍を助ける。侍は、清らかな川の流れでにおいを落とすと、見る見るうちに元気になった。聞けば、「りゅうのたまご」とやらにさわってしまったらしい。
六之助は、その「りゅうのたまご」を一目みたいと思う。そして、山を探し回る。そして侍にあった日から7日目、あの不思議なにおいが、六之助の方に流れてきた・・・。
中国の「聊斎志異」にでてきそうな話であるが、佐藤氏にかかれば、「こうなるか!!」と、思わず読者をうならせる話である。初めて読んだときには、その「におい」が漂ってきそうな錯覚に陥ったことを今でも覚えている。それほど、印象的な出会いだった。六之助のキャラクターや父や兄との会話、侍とのやりとり。「りゅうのたまご」の描写。瀕死の侍。いささかの手抜きもなく、物語は展開する。分類してしまえば一種の「英雄誕生譚」であるが、やはりファンタジックな場面での描写はするどく、読者の心をはるか昔の否含山にいざなう。気が付けば、読者の目は、六之助のそれと重なりともに、すばらしい幻想的な場面を目撃することになる。
例によって、物語の結末もあざやかに締めくくられる。佐藤氏の名調子に酔った読者の心は、しばしの間、、否含山の空を飛んでいるかもしれない。至福の一時である。
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否含山は、佐藤さとるさんが創作した山だがモデルは実在する。群馬県にある標高1,370mの山で、昔から農耕の神を祀る展望と信仰の山だったという。https://www.yamakei-online.com/yamanavi/yama.php?yama_id=18031
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