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「こどもに関する各種データの連携」によって、可能になる支援について考える①-デジタル庁 こどもに関する各種データの連携による支援実証事業資料から-

先般、「こどもに関する各種データの連携による支援実証事業」の公募が開始されました。詳しくはリンク先資料をご覧いただけたらと思いますが、以下、資料を抜粋します。

こどもに関する各種データの連携による支援実証事業についてのコピー

目的
・各地方公共団体において、貧困、虐待、不登校、いじめといった困難の類型にとらわれず、教育・保育・福祉・医療等のデータを分野を越えて連携させ、真に支援が必要なこどもや家庭の発見や、これらに対するニーズに応じたプッシュ型の支援(以下「支援事業」という。)に活用する際の課題等について実証を行うこととし、本実証事業に参加を希望する複数の地方公共団体を公募する。

事業の概要
○対象団体
・協力を希望する地方公共団体(都道府県及び市町村)。なお、複数の地方公共団体が共同で応募することや、関係機関とのコンソーシアム形式による応募も可。

○検証項目
必要なデータの洗い出し、紙ベースの情報のデジタル化 ・データ連携のための体制の整備、データの保有主体やアクセスコントロール・個人情報の取扱の整理
・データ連携のためのシステムの整備 
・当該システムを活用した具体的な支援事業の試行及び課題抽出
・上記の成果・課題を踏まえた、全国的な展開方策の検討

本稿では、現在、公開されている資料をもとに、「支援が必要なこどもや家庭の発見と必要なデータの洗い出し」、「当該システムを活用した具体的なプッシュ型支援の試行」の2点について、対人支援の現場の視点から具体的な運用について想像し、期待と難しさなどについて記していきたいと思います。

なお、自身は行政におけるこどもや世帯支援の経験はありません。いち対人支援職として、データ連携が成された現場で勤務することを想像し、本稿を記していることを最初におことわりしておきます。

それではまずは、前者の「支援が必要なこどもや家庭の発見と必要なデータの洗い出し」について記していきます。

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①支援が必要なこどもや家庭の発見の現状

現場で、支援が必要なこどもや家庭が発見されるパターンとして、ある組織A(学校、学童保育、放課後の居場所、病院など)が得たこどもや保護者に関する情報をもとに「発見」に至る、といったものがあります。

・(情報)真冬なのに、いつも薄着であるこども
→(仮説)「経済的に困っているのかもしれない or 適切な衣類を与えられていないのかもしれない

・(情報)目線より上の大人の手の動きに極端な反応を見せるこども
→(仮説)「この子は暴力を受けたことがあるのかもしれない/受けているのかもしれない

・(情報)名前以外の漢字が書けない保護者
→(仮説)「この人は知的な障害があるのかもしれない


「身体中にあざがある」といったような誰もがひとめみれば認識できるような状況以外において、支援の必要性の発見は、「かもしれない」という関わる担当者の仮説(気づき)からはじまります。

担当者の仮説(気づき)をもとに、ほかの課や組織と情報を共有したり、収集したりしながら、「支援の必要性」を具体化し、こどもや家庭に必要であろうと思われる支援についてアプローチをしていくことになります。

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②現場におけるアナログなデータ連携の現状

ある課(組織)の担当者の仮説(気づき)をもとに、ほかの課や組織と情報を共有したり、収集したりしながら、「支援の必要性」を具体化し、こどもや家庭に必要であろうと思われる支援についてアプローチをしていくさいに、組織(課)A、組織(課)B、組織(課)Cが有している情報を共有することができれば、より広範囲かつ確度の高い仮説をもとに、支援の計画を立てた上で、各組織(課)の役割分担をすることができる可能性が高まります。

実際の現場における組織間の情報共有は、電話や対面でのやり取り、複数の課や機関が出席して行われるケース会議と呼ばれるものがその役割を担っていますが、「ケース会議の開催対象となるこどもや世帯」をどう決めるかについては、一律の基準がある自治体というのは少なく、ある課(機関)が音頭をとって、参加する組織を選定し、ケース会議参加を依頼し開催するといった、担当者や組織の判断で行われることが多いように思います。

加えて、ケース会議で各課や機関同士で共有される情報は、口頭共有であったり、書面で共有される場合であっても網羅的な情報ではなく、ケース会議の目的に合わせて各課・各機関が選択した情報である場合が多く、書面の場合は、個人情報保護の観点から、会議の終了時点で回収されることがほとんどです。

上記のような現状を考えると、ある課(組織)の担当者の経験や勘に頼る「発見」ではなく、各課・各機関が有しているこどもと家庭に関する情報をデジタルデータ化しそれらを連携させ、活用することにより、”支援が必要なこどもや家庭の発見”を脱・属人化させ、”支援が必要であると想定されるこども・世帯を漏らさず洗い出す”ことの意義は大きいと考えます。

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③こどもに関する各種データ連携によって可能になる”発見”とは

”支援が必要なこどもや家庭の発見”を脱・属人化させ、”支援が必要であると想定されるこども・世帯を洗い出すことができるようにするためには、前提として、”支援が必要なこどもや家庭の発見”するためのスクリーニングアルゴリズムが必要になります。

スクリーニング:選び取る、ふるいにかける
アルゴリズム:問題解決のための手順や方法

本事業の検証項目のひとつに、「必要なデータの洗い出し」とありますが、そのためにまず、「どのような状況にある(状況に陥ることが想定される)こどもや家庭を発見したいのか・するべきなのか」ということを決める必要があります。

アルゴリズム次第で、スクリーニングの結果は変わるため、例えば、デジタル庁の資料にある「貧困や虐待等」について、貧困や虐待の状態にある(またはそうなる可能性が高い)こどもや家庭を発見するために、どのようなデータが必要なのかを決めるためのデータの洗い出しや選定について、本実証事業において、参加する自治体等のチームが知恵を絞っていくことになると想像します。

(少し脱線しますが、医療機関に勤務している方は、退院支援の必要性の有無について判断する際に活用するスクリーニングシートなどを想像いただくといいかと思います。退院支援の必要性の有無を判断するために、患者さん家族に関するどういったデータを選び、各々のデータにどういった重みづけをするか、などのアルゴリズムを組むことによって、漏らさず、かつ、必要性の高い患者さんを絞り込んでいくスクリーニングを行うことが可能になります)

まとめますと、以下プロセスによって、何かしらの支援が必要であろうと想像されるにも関わらず見過ごされてしまうということを防ぎ、スクリーニングの結果、対象となったこどもや家庭について、関係各課で構成されるチームが、どのような支援を行うかを検討することを助けてくれるであろうことが想像できます。

①.どういった状況にある(状況に陥ることが想定される)こども・家庭を発見したいのかの決定
②.①のために必要なデータを洗い出し、選定する
③.上記を踏まえ、スクリーニングアルゴリズムを組む
④.スクリーニングを行う
⑤.スクリーニングされたこども・保護者について支援内容について検討する(別稿で、この点について記します)

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⑤スクリーニング結果の活用

「データ連携によって可能になったスクリーニングの結果をどのように活用するのか」といった実務面の議論については、例えば、スクリーニングの結果に対して、自動的に、利用可能性の高い制度サービスのメニューのチェックリストをセットで提示することもできるでしょう。

先日出された、以下報告書内には、社会保障制度を必要としているであろう方たちが利用に至っていない現状についてのデータもありました。以下転記いたします。


●支援制度の利用状況について、収入の水準がもっとも低い世帯でも、「就学援助」や「児童扶養手当」の利用割合は5割前後であり、「生活保護」、「生活困窮者の自立支援相談窓口」、「母子家庭等就業・自立支援センター」の利用割合は 1 割未満と低い

利用していない理由について「就学援助」、「生活困窮者の自立支援相談窓口」、「母子家庭等就業・自立支援センター」に関しては、「利用したいが、今までこの支援制度を知らなかったから」と「利用したいが、手続がわからなかったり、利用しにくいから」を合わせた回答が全体で約 1 割となっている

各課・各機関で、①スクリーニング結果と②利用可能性の高い制度・サービスメニューを確認し、未利用の制度やサービスを、プッシュ型でお知らせしたり、確実に利用につながるようなアウトリーチ型の支援につなげていくことができ得ます。そうすれば、さまざまな理由で、本来利用できる制度を利用できていないこどもや保護者をゼロに近づけていくことも可能になるのではないでしょうか。(この点については、次稿、もう少し詳しく書きたいと思います)


長くなりましたが、本稿では、「こどもに関する各種データの連携」によって、可能になる支援について考える①」と題し、現在の現場での情報共有の現状を踏まえて、デジタルデータでの各種データ連携の具体的な想定イメージと可能性、データ連携によって可能になり得るであろう点について記しました。

次稿では、「当該システムを活用した具体的な支援事業の試行及び課題抽出」について、同じく対人支援の現場の視点から記してきたいと思います。



参考)
本稿で述べた「スクリーニング」については、以下資料にある、箕面市で行われている子ども成長見守りシステムような先行事例がありますので、よろしければご覧になってみてください。

https://www.mext.go.jp/content/1384317_5.pdf (資料P34)



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