高市総務相がNHKの常時同時配信について「新聞や民放がうるさいから来年度は我慢しなさい。2021年度からは何とかするから」とバーターしたように聞こえた12/26の「放送諸課題検討会」
世間ではすでに年末の納会が始まっている中、総務省の放送諸課題検討会が何というか「ジャンジャン」な終わり方になりまして、これではM-1グランプリで決勝に残るのは難しいだろうなあと思いながらPCに向かっております。
今日の同検討会は、今後何を検討事項にするかについて、事務局から以下のような例が示されました。
1、通信・放送融合に対応した放送政策の在り方
2、公共放送の在り方(役割、三位一体改革、受信料制度)
3、災害時における放送の確保の在り方
この会がスタートした4年前とほぼ変わらないテーマには、唖然というより平成を懐かしむ懐古的な感情を抑えきれません。
これに対して構成員の皆さんからは、「それはいいんだけど、そもそもさーあ」みたいなストレートど真ん中なご意見が次々と発せられました。NHKの常時同時配信の実施認可については、総務省的にはもう決着したのでしょうが、「私たち的には納得いかないよ」ということでしょうか。
「俺たちの4年間は何だったのよ」
電通の奥律哉さんはのっけから「肥大化とか民業圧迫って言葉ばかり出てくるけど、予算の制限でリアルに常時同時配信できないとなると、この4年間何を議論してきたでしょう」と、至極ごもっともなご意見。「民間事業者は身を削ってアプリサービスを競っているのに、関係者の合意があればフルスペックでできる常時同時配信やらないと、若者はその時点で2度と見ないですよ」と。
インフォシティの岩浪社長は「シスコの予想だと、2020年には通信トラヒックの80%がビデオ。この4年間で放送と通信の技術格差は大幅に縮まっており、(NHK民放)みんなで研究開発進めないと大変ですよ」とこれも4年間のグダグダ議論をチクっと刺していました。
考えてみれば若者のテレビ離れをどうするか議論していたんですよね。それがいつの間にか別な観点にすり替わってしまったことがご不満だったようです。
「若手の意見を聞いた方が」
東大の宍戸先生は「放送業界の若手とか、ベンチャー起業家とか様々な声を聞くべき」とおっしゃってましたし、スマートニュースの瀬尾さんも「メディアへの接触は若者が顕著に変わっているんで、若い世代に耳を傾けるべき。私たちはみんな歳をとってきているので」と自虐系のコメントをされていました。
「NHK経営委員会にもチクリ」
学習院大学の小塚先生や前出の宍戸先生はNHKのコーポレートガバナンスについても言及しました。「コンプライアンスばかり言ってるけど、要は”企業価値の最大化”って意味なんだから、存在価値をどう高めるのか考えてくれ」とか「ガバナンスの目的は国民の知る権利に応えるため番組編成の自主自立を確立することでしょ」と。宍戸さんは「経営委員会のガバナンスも重要」と、取材プロセスにまで言及した石原前経営委員長の姿勢を暗に批判しておりました。
総じて、今回総務省が突きつけた「考え方」にNHKが白旗あげたことを批判されていたような感じでしたが、裏を返せば、NHKにばかりいちゃもんつけている間に、放送全体の船が沈んでしまう危機感を民放が何で抱かないのか。それに総務省が何でストップをかけてしまったのか。怒りの方向はべつに向いている感じがしました。
高市大臣の意外な一言
最後に高市大臣の締めのご挨拶がどうなるんだろうと、みんな固唾を飲んで聞いておりましたが、簡単にまとめると以下のような感じでした。
「せっかく法改正したのに中途半端な同時配信じゃもったいないというご批判もいただいたが、条文には『費用が過大にならないこと』とあるし、付帯決議では衆参全会一致で『節度』と『受信料』を盛り込まれたので、一年目はフルスペックとはいかないが、来年度以降は検討したい」
これは13日の検討会での発言とは打って変わって優しいお言葉。NHKが白旗あげたから許してあげたという見方もあるかもしれませんが、私は最後の「来年度以降は」が気になりました。会長も代わり、経営委員長も代わり、ついでにNHK批判した旧郵政幹部も一掃できたからでしょうか。実際は「来年度」ではなく「さ来年度」でしょうが、その時はNHKに常時やらせるから、当初は我慢せいというように受け止められました。考えてみればNHKの白旗も妙に素直だったので不自然だとは感じておりましたが、ひょっとしたら総務省との間にバーターがあったのかもしれません。
しかし、内部ではそれでいいのかもしれませんが、こんな時間のかかる握り方をしていては、奥さんのいうようにあっという間に「ワンストライクアウト」になっちゃうのではないかと心配しております。NHKの新局舎が全て建て替わる2036年まで日本の放送業界が存続していることを祈るばかりです。