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キラキラした海を目指して。室蘭へ②


旅の計画。

札幌駅から室蘭駅へ。乗り換えのバスに乗るまで。

写真で少し振り返り。写真は全てiPhone。

家を出た
札幌駅。特急すずらんに乗る
白老の海
室蘭駅着


目的地の喫茶店、mutekirouまでのバスを待った



13:52。
フィルムカメラでカシャカシャ撮っていると、バスが来た。今のところ、時間通り。

絵鞆(えとも)循環線(循14地球岬団地(増市通→絵鞆→祝津町経由)

慌てて乗る。
後ろの方へ座る。

空いている席がいくつかある程度に、人が乗っている。
街の人がいる安心感。

そういえば、パパに送ったLINEが全く既読にならないのは気になる。出発してからずっと。多分、遊んでいて忙しいのだろう。と、思うことにしたい。大丈夫かな。


バスは大町商店街を右折して旧室蘭駅舎の前を通る。

旧室蘭駅(室蘭観光協会)


私は室蘭が地元でも親戚がいるでもなんでもなく、住んだこともないけれど、何度も車で旅をしているから、この道は知っている。

運転しているとゆっくり周りを見ることはできない。今、初めて建物の名前を読んだり、古い建築を確かめながら移動できている。誰かに連れてきてもらうでもなく、自分で考え自分だけで動く。楽しい。


バスを降りるのは「絵鞆公園前」。
バス停を18個。乗車時間は20分。

室蘭。全体図。(白鳥台の方切れちゃった)
目的地までのバスの道のり。

国道を途中から左折。
絵鞆岬にあるmutekirouの近くまでは細い住宅街をくねくねしながら進む。

こんな細い道を、バスで通るのは珍しい。家はたくさんあるけれど、コンビニが少ない。スーパーもなさそうだから、生活するとなるとなかなか大変そうだなぁと想像する。ただ、なぜか、憧れてしまう。室蘭に住むということ。海が、噴火湾が見える場所を選んで、そこへ落ちる夕陽を毎日眺めながら住んでみたい。


運転手さんはずいぶん、キレの良い運転をしている。急がないといけない路線なのだろうか。ぐんぐん進んでいく。頭の中の地図的に、そろそろ着く頃。かな。


14:10
「絵鞆(えとも)公園前」下車。

バス停から数分、突き当たりを右に曲がって坂を降りると目的地、喫茶店mutekirou(ムテキロウ)がある。海が見えるのももうすぐ。
(さっきの室蘭駅や大町商店街は少しだけ海から離れているから見えない)


8年ほど前に一度行っている。まだ2人の時代。あれはもう、そんなに前なのか…


バス停から一緒に乗った海外のカップルもやっぱり降りた。同じお店が目的地だろう。観光地に室蘭を選び、そしてあのお店に行く選択肢を取るとは………

誰に言っても「室蘭?何しに?なんかあるの?」という顔をされたり、言われたりする。そういう人にあまり説明したくはない。言っても絶対に伝わらないし、知らないのだろうし、薄い反応で「へぇー(知らない)」が返ってくるに決まっている。その後味しか今のところ経験したことがない。

私の宝物。誰かにとっては不必要で興味のないもの。
見ようとする人にだけわかる光。

その光まで、もうすぐ。



実はこの辺りには、去年の6月に一度来ている、3人で。
撮りフェスという室蘭のフォトイベントに参加した時に「小舟」というご飯屋さんに行きたかったけれど、行列で、諦めてすぐに違うところに移動した。

今日は定休日なのかな、お正月休みかな。閉まっている。ここ周辺に誰の気配もない。勿論、虫もいないし、冬に咲く山茶花もない。どの植物もみんな眠っている。一度季節が止まる、終わる。途切れる。表現しきれない、冬の静けさ。

住宅街だけれど誰一人歩いてはいない。家もたくさんある。住んでいるのかいないのかは、わからない家もあるけれど。


見え始める。海が近い。噴火湾。岬の端っこ。

来たんだな、海まで。この、海まで。一人きりで、ここへ来るとは。思い切った。
前は3人で来るだけでも勇気が必要だったのに。
何より、列車とバスで、来れるんだな。なんだか嘘みたいに、ここまで来れてしまったな。

時間は少ない。急ぎ足。薄い雪道、氷。滑らないように、足元のルートを選び、歩く。

久しぶりに来た。そして初夏の雰囲気とは全然違う。どちらも好きだ。
突き当たり、左側の景色。


右に曲がる前、正面に空き地があった。崖の上。海に一番近そうなところ。そこで海を近くでちらっと見てからお店へ行こうかなと思った瞬間。


目が離せなくなった。
呼ばれるように、足が勝手に向かっていく。

ベンチ…

崖に緩く打ち付ける波の音。
弱く冷たく吹く冬の海風。もうすぐで沈んでしまいそうな柔らかい日差し。
噴火湾の向こうにはっきりと見える山々も、大切な駒ヶ岳も、誰がここにベンチを置いたのかも、展望台でも有名なスポットでもなく、名前のない場所で、そしてそこにベンチがあるその光景にも、


全てに圧倒された。求めていたもの以上に素晴らしい瞬間に出会った。
全てはここへ来る為の、長くて辛い伏線だったのかと思えた。


海を見に来た。ここまで約140km。
どの海を見にいくか、ギリギリまで迷った。時間はないけれど、どうしても海が見たかった。
こんな真冬に。どうしてかはもうわからない。海が見たいと思うことの理由は説明できない。
でも実はこの場所と海と、ベンチに呼ばれて来たのではないかと、勘違いさせる程のこの優しさと、そこに在る完璧さに、ただただ胸がいっぱいになって、
撮り逃したくなくて、夢中でシャッターを切り続ける。
iPhoneでもフィルムでも。

この場所。
車が5、6台くらい停められそうな、小さな駐車場くらいの空き地。入り口はパイプの仕切りがあって、人が通れるようにだけ、なっている。どなたかのお庭、な気配ではない。

あの二人も、私の後から同じようにここへ吸い込まれて来た。

彼女はとても嬉しそうに、静かに海を撮っている。その彼女の側で優しく見守っている彼。
彼女が撮っている方向。
海の上には「大黒島(だいこくじま)」
その奥には蝦夷富士と呼ばれる「羊蹄山(ようていざん)」、左隣りに「有珠山(うすざん)」とこの辺りで有名な高い山々が雪を被ってはっきりときれいに見える。

彼女は海をぐるりと、動画で撮っている。
英語は話せないけれど、お二人撮りましょうか?とか、どこから来たんですか?とかなぜ室蘭に?とか、色々質問しようと思って、タイミングを待ち構えてみる。

その間自分も、カシャカシャ撮っている。
で気がつくと彼女たちは、行ってしまった。
あ…私なんて気の利かないやつなんだ。もっと早く話しかければよかった…。ごめんなさい…。


私は列車の中で、前の席で美しい風景を一つも見ずに懸命にメイクに取り組み、テーブルもしまわず、その上に口を閉じず、まとめず、ゴミ袋を置いて下車したあの海外のお姉さんにちくっと棘を刺されて傷ついた時、
地味な名もない景色はただの「移動中」であり、不必要で興味のないものだよな、と拗ねたけれど。


今ここで一緒になった彼女と私は、同じ景色を撮っていて。感動して心が震えるから撮る。その感情が背中から伝わってきた。大袈裟だけど、唯一、この宇宙上で、今日のこの美しさを共有できた人で、彼女のスマホのアルバムには私と同じ日、同じ時刻の、同じ室蘭の海の写真がある。

見ようとする人にだけわかる、その光を共有した人。
棘を抜いてもらえた気がした。

雪が降る前、秋の最後。寒いけれどまだ生き生きとしていたご近所の花や草も、雪が積もった次の日、みんなこの茶色になっていた。でもこれが春になると自力で緑になるのだから不思議で、素晴らしい生命力だ。この茶色と青、私はかなり好きだ。
今年は雪が少ない。(多いところは多いけれど)一度溶けて以来降ってないんだな。

一人きり。
お言葉に甘えて、座らせてもらった。

このベンチはまだ全然きれいなままで、腐ってもいない。色が褪せてはいるとは思うけれど、すうっときれいだ。

この場所のもう少し坂の上には、絵鞆岬展望台がある。ひっそりとはしているけれど、駐車場もオブジェもある場所。時間があったら寄りたかった。

バスを降りたら喫茶店へ直行の予定だったけれど、思わぬところに、思わぬかたちで呼ばれてしまって。でもそういう予期せぬ出会いみたいなものがあるから旅は良い。ただ、、時間がない。。。

この特等席、ずっと座っていられる。
そこに見える岩は「えびす島」という無人島。だそうだ。

心に優しい波音がする。風は弱い。気温は2℃くらいだから寒くはない。指先のない手袋。出ている指は真っ赤。指はこんなに赤くなるのか。カメラに入っていた白黒フィルムが撮り終わった。次はカラーフィルムを入れるけれど、指がかじかみすぎてうまく動かせない。失敗しないように…ベンチがあってよかった。


帰りのバスに乗り遅れたら、もう帰りの列車は間に合わない。
残り45分。正直、ずっとここに座っていてもいい。目的は海が見たい、だからお店へ行かなくてもいいといえば、いい。ただ、指が限界なのと、お昼を食べていないからエネルギーが切れかけている。(ことに気がついた。)お店にも少しは行きたい。何か食べるなら早めにお店に入らないとバスに間に合わない。

だいぶ惜しかったけれど、ベンチから離れて、お店へ行こう。そこもまたずっと想っていた場所。
時間が欲しいなぁ。結局色んな欲が出てしまう。また必ずここへ来る、その時までここに在ってほしい。ベンチさん、よろしくお願いします。またいつか。次はもっとゆっくり座らせて下さい。


さぁ、行くなら急がなくては。
歩いて2分程の距離にある。坂を下る。

宮越屋珈琲 mutekirou
絵鞆岬のはじっこ。

ほぼ満車。いきなり人の気配がたくさんで驚く。

中へ。席がほぼ埋まっている。あのカウンターは空いていた。そこへどうぞと案内された。


7年前、初めてきた時もここへ座った。その時はGWで、もう少しお客さんは少なく落ち着いていた。2回目に来た私はこんな状況でこんな私で来るとは想像もしなかったな。

座って、改めて見た自分の指は、かなり赤かった。擦りながらメニューを見る。

「わぁ!大丈夫ですか!?真っ赤で!落ち着いてからでいいですからね」

カウンター越しの店員さん。気さくでお優しい。

念の為、聞く。
このチーズトーストとスープのセットは提供時間は結構かかりますかね…??
10分程かかってしまいますね…
あ、10分くらい!!じゃあこれでお願いします。ちなみに、スープってなんですか??
ドライトマトのスープです。(おいしいですよ)

もう、気さくでお優しい。
それに決めた。


待つ間。フィルムカメラを構えた時、シャッター切り終えるまで映らないように避けてくれていた。いや、ごめんなさい、すいません、むしろ。お仕事の邪魔になるかもしれないから控えよう。

「おー、いいねぇ、それフィルムでしょ??」
「最近また流行っているんですよね?フィルムね」
隣のお席のおじさんと店員さんが話している。に、対してちょいと苦笑い気味で頷いてしまった。流行り。
何でも編集してキラキラ鮮やかに映えて良き、みたいな流れがなんだかもやっとして、流行りとはむしろ逆行しようとロックな気持ちで手をつけたらそれが実は流行りごとだった。
思えばフィルムとの再会は室蘭がきっかけ。撮りフェス2022で室蘭を撮るなら、誤魔化しのきかない、嘘がつけないフィルムがいいかもなと思ったからだった。


フィルムを褒めてくれてありがとう。そこに嫌な感じは一つもしないし、ありがたく思う。

ほかほかの食事。与えてもらう食事は美味しい。一瞬で栄養になった。一緒に時間もビュンビュン消えていく。
指先も元通りになってた。

さっきの2人はあの窓側、海に1番近い席に座っている。良かった。あの席、次は座ってみたいなぁ。

カウンターの左側には、CDとレコードが大量に収納されている。詳しくはわからないけれど、McintoshのアンプとJBLのスピーカーというのは素晴らしい機材と音響のようで、あの鏡餅の横に設置されている。(ライブも時々開催される)

三方向ガラス張り。なんの飾り気もない、日常しかないこの街と漁港。
お客さんは地元の人も多いのかもしれない。そういう雰囲気は安心できる。

コーヒーと一緒に小さなデザートもきた。時間がなさすぎて、セットに何がついてくるかもよく見ないままだった。杏仁豆腐かな?体は甘みを欲してた感じ。素晴らしいタイミングで運ばれてきたコーヒー。目の前で作って下さっていたそれが
私の分だった。

わーっと食べて、ガーっと飲む。ことになってしまう。
私の一人旅ではお決まりの。美味しかった。


そろそろ時間。結構ぎりぎり。短いな。でも来れて大満足。
お会計してバス停へ向かう。帰り際。
ドアのすぐそば、この奥は個室になっている。どこを見ても素晴らしい。

お店を出た。

帰りのバスまで残り10分くらい。バス停までは5分もかからないから、もう一度、ここへ寄った。さっきよりも太陽は下に沈んできている。

本当にいい海が見られた。キラキラした海というのは、もっと青い海とか透き通るような海のことを言うのかもしれない。北海道にも透明度の高い、青い海はある。
積丹ブルーとか増毛ブルーとか言われるところのは知っている。でもそちらはもっと岩場の感じで、日本海の広く果てしなさすぎる怖さがある。
ここは噴火湾という湾で、対岸には知っている景色がある。小さな頃から通ってきた道が続いている。キラキラした海というか、キラキラした「この海」が見たかった、なのだと思う。
北舟岡駅の海も、噴火湾。同じ海。

気がついた。太陽の周りに大きく、何か出ている。
なんとかって言うのかな。わからないけど、きれいだ。さあもう行かなくちゃ。

バス停はこの先。ひっそり。

車の音も、なんの音も、しない。

静まり返っているから、遠くからやってくる車の音が聞こえる。バスきたかな?

来た。乗車。
「絵鞆循環線(13地球岬団地(絵鞆団地/祝津町経由))」乗車時間20分。

登り坂、下り坂、カーブ、細い道。ぐんぐん進む。

時間通り、予定通り進んでいる一人旅。
帰りの列車まで少し時間があるから、寄り道して、そこから歩いて室蘭駅へ行くことにしよう。

途中の旧室蘭駅舎(「室蘭観光協会前」)に寄ってみる。バスを降りた。

乗ってきたバス

外壁の白漆喰が真っ白で、木部と茶色の屋根のコントラストが見事。素晴らしい美しさで今もここにある。土台部分の石は、軟石だと思うけれど、北海道のどこでとれた軟石なのかはわからない。(札幌軟石ではなく登別軟石かもしれない)

(これは行きのバスの中から撮った駅舎全体。)

駅舎の中。見ただけで嬉しくなってしまうこの座席。この中は室蘭の情報と、かつて室蘭駅で使われていたたくさんの展示がある。フィルムでも撮った。

外には室蘭で使われていた機関車D51がある。札幌の苗穂工場で製造された貴重な機関車。とても綺麗に保存されている。運転席にも入れる。夕方になると頭のライトがつくとは。。この時間に見るのは初めてだからこれは嬉しい。

16:00過ぎ。帰りの列車は16:30。そろそろ室蘭駅へ移動しなければ。
この道を真っ直ぐ行った先にある。ゆっくり歩きながら、写真を撮りながら行く。


カラスがみんな帰り始めた。飛行機雲をたくさん見た。月がぼんやり見えている。

室蘭駅、無事到着。気がついたら、街灯も、常夜灯もついている。
駅の入り口では、大きな荷物を持った人が車から降りてきて、別れを言っている。
今日はお正月休み最終日。自宅に帰るんだね。同じ列車だ。

室蘭は、やっぱり何度来ても、大好きな街。
室蘭の景色は特別なもの。
全然誰にも伝わらなくても。
私にとっては大切な光。
「あの海」が見れて良かった。

次はいつ会えるかな。


駅の改札を通り抜ける。もうホームで「特急すずらん」は待っているみたいだ。
乗車する前に一枚撮りに行こう。


次、だんだん夜になっていく車窓を軽くまとめて載せて、完結。の予定。

出てきたもののご紹介

宮越屋珈琲 Mutekirou

室蘭市ホームページより
旧室蘭駅舎


室蘭観光情報サイト
おっと!むろらん




ここまでお付き合い頂きありがとうございました。長いですね相変わらず。


おまけに、あの場所の8月の風景。グーグルマップから借りてみました。雰囲気全然違いますね。


ぜひぜひ、隠された宝の山、室蘭を、よろしくお願いします。


ベンチさん、いた


前に書いた、簡単な室蘭のご紹介↓

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