30分後の未来予知(1769字) │ 特撮ショート
何度も明滅を繰り返すサインの明かりと、大音量の割に何を言っているのかよく聞こえない広告の映像。この二つのおかげで、大勢が各地から寄り集まってくるのがこの街だ。虫より人間の方が多いとさえ思えてくる。ゆらゆらとうごめく群衆の波は、人を酔わせ、普段ならしないような選択をさせる。
だからわたしはこの街の片隅で、得意な未来予知を商売の種にしようと、占い屋を営んでいる。
「やってますか。一人なんですけど」
古びた薄緑色をした鉄製のドアを重そうに引きながら、若い女性が訪ねてきた。どうぞどうぞとわたしは彼女を中に引き入れ、四角い小さな木製のテーブルを挟んで座るよう促した。
「表に未来が見えるって書いてましたよね」
「ええ、そうですとも。仕事、結婚、投資なんてのは誰でも悩むでしょう。失敗したくないですからね」
わたしはいそいそと机の上に道具やら書類の類を広げながら相槌を打つ。
「じつは、いまの婚約相手が不安で」
「なるほど。ただのマリッジブルーで済むかどうか知りたいのですね。この後お会いになる予定は」
「特にないですが、なにか」
「そうですか。いえ、少し困りました」
早口で喋っていたわたしが急に静かになるものだから、彼女の顔が不安に包まれた。しばらく事情を説明した後、相手は怒りながら表に出てしまい、入り口に立てかけてある「未来予知・最短30分」の文字が書かれた看板を睨み、足早に消えていく。
彼女がそうなるのも無理はない。わたしは30分先の未来しか見ることができないからだ。元々その能力を持つ外星人の一族に生まれながら、数年先まで見通せる者が多いにも関わらず、なぜかわたしだけ違った。
ある時、一族の棲家を地球に移すことが決まり、自ずと生計を立てるのに能力を使った。地球人は私たちができることを占いと呼び、ただできることが限られていたため、着陸した街にわたしたちだけで占い街ができるほど繁盛した。わたしの店を除いて。
「みてもらえるかな」
先ほどの女性に続いて間を開けず、一人の若い男性が訪ねてきた。わたしからの返答を待たずに開けたドアを静かに閉め、気づくと目の前に座っていた。
「ええ、かまいません。ただ、わたしは30分先の未来しか見えません。よろしいですか」
「それでいいです。急いでいて、ちょうどそれくらい後の結果が知りたいから」
一つ前の出来事もあり、怖気付いていたわたしの心配は無用なようだった。
「結果とおっしゃられましたが」
「それなんですがね、わたしは人生を棒に振ってでも、やり遂げたいことがあるのですよ」
「もう少し詳しくお聞かせ願えますか」
「復讐です。わたしの家族がある輩にだまされた。人生を狂わされたので、それ相応の報いを受けさせないと」
あまり詳しいことは話してくれない。
「では、どちらかの手を机の上に出していただけますか」
わたしは相手の体の一部に触れないと、未来が見えない。その男は右手を静かに差し出してきたので、指先を軽く握ってみた。
おかしなことに、何も見れない。いつもなら数分もかからず、相手が指定してきた未来のシーンが脳裏に浮かんでくるのに。
「すみませんが、反対の手でもよろしいですか」
相手は硬い表情を変えないまま、わたしの言うことに従う。
だが、手を変えてみても状況は変わらなかった。焦って何度も握ってみたり、握る指先を変えても一向に何も見えない。
「どうなんです」
「少し今日は調子が悪いようで、すみません。お代はいただきませんから」
その途端、男は急に怒りを露わにし、椅子を部屋の隅に飛ばしながらわたしの胸ぐらに掴みかかってきた。
「いい加減にしろ。何が未来予測だ。どいつもこいつも嘘ばかり教えやがって」
まるで氷でも首に巻き付けられてるかのような感覚になる程、太く伸びた腕は冷たく、硬い。静止しようとしてもびくともせず、わたしは思わず相手の肩に手をやって押し除けようとした時、突然未来が見えた。
浮かんできたのは、今目の前で起きてる騒ぎの続きのようだった。男はわたしの首を掴むのをやめると、まるで手袋を取るかのように手首から先を取り外した。両手が義手で、取れた後にあらわれたのは黒光りする銃口。男はそれを静かにわたしに向けると、何かを呟き出した。そこでシーンは終わる。
どうやらわたしの未来の行く末を知るには、30分では足りないようだった。
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