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宇宙飯店 「恒星」(1266字) │ 特撮ショート 

 一日中せわしなく電車が行き交う高架下沿いの道を行くと、立ち飲み居酒屋が軒を連ねる一帯の奥に、その飲食店は見えてくる。

 食べるものに困っている異星人なら、誰でも、タダで利用できる。昼時の店内は満席。厨房は至る所で火を吹き、はやく注文したい客達の叫び声が響き渡る。どれも見たことがないし、聞いたこともない。

 「これ、三番テーブルね。そこの小鉢も一緒に」

お手玉でも扱うように鉄鍋を軽々と返しながら、テキパキとスタッフに指示を出す彼は、この店の店主だ。元々父親が開いたこの食堂を継ぎ、今では立派に切り盛りしている。創業から二十年以上続く味を、自分の代で絶やしたくなかったそうだ。

 「おい、いったいいつまで俺様を待たせりゃ気が済むんだ」

 店の奥で、一人の異星人が提供が遅いことに痺れを切らした。テーブルの前に立つスタッフは縮こまっている。

「すみません。もう少々お待ちください」

「落ちこぼれだとバカにしているのか」

 頭が火山の様になっているその異星人は、今にも噴火しそうなくらい、中身がグツグツと煮えたぎっている。すると、後ろから料理を持って店主が駆けつけた。

 「お待たせして申し訳ございません。こちらがご注文の品、当店自慢の溶岩麻婆麺です」

真っ黒な鉄鍋に波波と注がれた真っ赤なスープから立ち上る湯気。唐辛子だろうか、真っ赤な粉末は湧いてくる泡で踊っている。

 「お客さま、マグマ星人ですよね。地球はあなたの星よりも、さぞ寒いでしょう。暖まりますよ」

店主がニコッとしながら、口に運ぶようすすめると、少しバツが悪そうにしながらも客はズルズルと麺を啜り出し、やがてポロポロと涙を流し始めた。

 「すまない、ここのところ疲れていてな」

 「いいんですよ、ゆっくり召し上がってください」

 あたりに立ち込めていた緊張感があっという間に解けて、周りにいた客も、なんだか嬉しそうな表情をうかべた。ここに来る異星人達は困窮しており、余裕がないのは、父の代から変わらないようだ。

 「店長、すみませんでした。自分が見過ごしてしまったばっかりに」

 「大丈夫。間違いは誰にだってある。それに、ただでさえ短気なお客さんだったから」

 外食を楽しみに来ているのではない。職さえままならない異星人が、腹を空かせてやってくるのだ。抱えている事情は、それこそ星の数ほど存在する。

 「お客さんに一瞬でもホッとしてもらう方法は、なにも料理だけじゃないはずだよ」

スタッフにそう言い残すと、彼はまた厨房に戻った。

 その夜。

 スタッフが続々と挨拶を済ませ店を後にする。全員帰ったのを見計らうと、店主は電話で誰かと話しはじめた。

 「ええ、今度のはすこぶる効きがいいですよ。食べた途端に、泣き始める奴まで出たんですから。あれだけおとなしくなれば、成功でしょう」

 「それで次の振込はいつですか。こっちだって、野蛮な相手ばっかりで、毎日大変なんですからね」

口元に微笑を浮かばせながら、話を続ける。

 「料理に渡された粉入れて出せば、警察から報酬が出るって親父から聞いて始めたんですよ。約束は守ってください」


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