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【前編】終身刑(1764字) │ 特撮ショート
「被告人を、仮釈放のない終身刑に処す」
自分の目線の遥か上あたりに裁判長席が設けられているせいで、まるで天からの思し召しかのように、そのセリフは降ってきた。広い法廷の真ん中に立たされた被告人の私は、ヒョロリと先に向けて細長く伸びる耳を、青白い指先で揉むように触っている。
それも飽きて顔を上に上げても、誰かが席にいるのはわかるが、暗くてよく見えない。どこの誰だか知らないが、お前に私の人生は決められるんだなと思った。思うだけだった。
私も同じことをしてきたから、そう思う。星から星を渡り歩き、大方の悪事は働いてきた。その場で捕まるような失敗は犯してこなかったが、最後の銀行強盗が潮時だったようだ。全員の息の根を止めたと思ったが、死に損ないが緊急報知器に手を伸ばし、その場で地面から生えてきた無数の銀の柱に頭の上まで囲まれたせいで、今ここにいる。
生きていくのに必要なものは、すべて自分以外から奪ってきた。誰かに頼まれることもあったが、指図されるのは性に合わない。そもそも、頼んでもないのにこの世に放たれ、可愛がられるどころか、奴隷みたいに扱われて育った自分は、いつしか損得が判断基準になっていた。
取るか、取られるか。 この世はすべてこの関係で説明がつき、調和が取られている。だから、取られる側になればいいんだと、何の疑いもなく思った。何がそんなに憎いんだと言われることもあるが、よくわからない。欲しいものを取ろうとしているだけで、邪魔してくるから排除した。ただそれだけのこと。
「被告人の行動は極めて理不尽であり、到底許されるものではない」
たしかに判事長がいま言った通りだ。さっきとは反対の耳を今度は触りながら、妙に納得して聞いていた。自分が取った分、誰かが損してるわけで。それを取り返そうとするのは調和を保とうとする自然な働きだ。特に反論する気も起きなかった。
宇宙裁判所で必要な手続きを終えた私は、銀河の彼方、誰も知らない辺境の地にある拘置所に身柄を送られることになった。輸送船では、分厚い金属製のヘルメットで顔を覆われ、無音の闇に支配される。首輪、手錠までかけられて、身動き一つ取らせてもらえない。座席の下からどしんと伝わる振動で、はっと目が覚めた時までは。
「三〇二番。ここに入れ」
入れと言いながら、周囲のやつらは私を半ば投げるように扱っていた気がする。拘束具を乱暴に外された途端、真っ白な世界と聞きなれない耳鳴りが襲ってきた。思わず足元がよろけてしまい、体が何か硬いものに当たった後、けたたましい音を立てて倒れた。
「おめでとう。お前も晴れて、この部屋の仲間入りだ」
聞いたことのない電子音のような笑い声を引き連れて、奴らの足音が遠のいていくのを、私は床越しの耳から聞き取った。
「仲間入りって、どういう意味だ」
ドアは閉まりかけていて、独り言にしかならなことをわかっていたが、虫が脱皮するかのようにゆっくりと起き上がりながら、ボソッとそうつぶやいた。目を開けようにも明るすぎて開けられない。だがそれは、自分が倒してしまった自立式のライトだと気づくのに、あまり時間はかからなかった。
独房に不釣合な洒落た家具があるのは、おかしい。恐る恐る周囲を見回すと、それはまるで、ホテルの一室とでも言えばいいだろうか。それも一番値が張りそうな部屋のなかにいた。くつろぐための家具は一式揃えられている。白い革張りの大きなソファーに、薄氷で作られたかのように澄んだガラスの四角いテーブル。机上には銀色に輝く茶器や、氷の海に浮かぶ酒まで置いてあった。さらには、雲のように膨らんだベッドまで。まるで、飛び込まれるのを待っているように見えた。
だが一番驚いたのは、正方形の間取りで、入り口の正面に端から端まで目一杯広がる大きな窓があることだ。眼下にはどこまでも続く茶色いゴツゴツとした岩肌と、その先には見たことのない赤い惑星と円環が、宝石のように美しく佇んでいる。
貴族のような身分の老人が、残りわずかな余生を過ごすのとは違う。憎み、恨まれ、法によって極刑を受けることに賛同される身分のはずなのに。いや、むしろ終わりの日までは、しばしの安寧を与えられたと捉えるべきだろうか。
【後編】はこちら
散々悪事を働いた犯罪人の宇宙人。
同情の余地もないようですが、入れられた辺境の独房は、まるで居心地のいいホテルのようですが…
この作品は、カモガワGブックス様が主催する、
「第2回カモガワ奇想短編グランプリ」の応募作でした。結果は落選でしたので、こちらで公開し供養させてください。
ダークなホラーに漠然とした憧れがありまして。
少々センシティブなタイトルですが、宇宙に行くのが容易になった時代。どんな刑が生まれるのだろうかという疑問(根暗)を元に、あらすじを考えてみました。読んでいただけると嬉しいです。
\最後まで読んでいただき、ありがとうございます/
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